眠らぬ川蝉01「塩を溶かした水です。飲めますか?」
隙間風のような掠れ声だった。
掲げられた竹製の吸い筒に力の入らない手を伸ばす。吸い筒を握る男の右手に指先で触れると、飲み口がそっと唇に触れ、ゆっくりと傾けられた。少しずつ口内に流れてくる水が舌の上を転がり、喉を鳴らせば胸の方までするすると落ちていくのが分かる気がする。
水は僅かに甘く、渇いた身体に染み渡っていくようで、その甘露を味わうことしか考えられない。吸い筒に伸ばしていたはずの自身の手がいつの間にか投げ出されていたことにも気付かず、高杉はしばし与えられるがまま、こくこくと喉を鳴らして水を飲んでいた。
「水、汲んできたぞ」
「ありがとう。この手拭い濡らしてくれ」
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