「僕は意外と遅れてるんだそうです。」
律は唐突に口を開いた。ここは霊幻の部屋、今日は日曜日、今は霊幻と律の二人きりテレビを見ながらダラダラしていた…いわゆるお家デートというやつである。
「は?何がだよ。」
「昨日級友に言われました。僕がキスもその先も未経験だと言ったら、
意外だ、影山はもっと進んでると思ってた、と。」
「あー…」
初めて会った時は小学生だった律ももう高校生である。同級生とそういう話になることもあるんだな。中学の時は周囲から近寄り難い印象のあった律に砕けた話をする同級生が出来たのなら喜ばしいことだ。そう霊幻が考えていると、律がこちらをジッと見ていることに気付いた。
「ん?」
「…霊幻さん、」
そう言いながら律は霊幻の真横に座り両目を細めながら顔を寄せてきた。
「あのなぁ律、お前が何もしないって言うから家に上げてやったんだろ……このケダモノ!」
ふざけた口調で言いながら律の口を片手で塞ぎながら少し押せば律は分かりやすく頬を膨らませた。
「…早く大人になりたい。」
そう言って俯く。頬を膨らませた仕草は子供っぽいのに伏せた目元に落ちる影は艶があり、そのアンバランスさに目が離せなくなる。霊幻はそっと唾を飲み込んだ。
「お前がクラスメートなんか気にするタマかよ。そもそもお前が成人するまで手は出さない。そういう約束だったろ?」
「…キスくらい良いじゃないですか。減るもんじゃないですよ。」
「駄目。」
「…意気地なし。」
「おう、俺の小心なめんな。」
律は目を潤ませてうらめしげに霊幻を睨んだ。その様子が愛らしく、霊幻のイタズラ心を刺激する。
「じゃ、ココ。特別にここだけな。」
そう言いながら霊幻は律の頬に右手の人差し指を当てた。そのまま反対の頬に左手を添えると人差し指で指した頬にそっと触れるようなキスをする。律は大人しくされるがままだ。霊幻は唾液をたらしまるで口の中を愛撫するときのようにわざとピチャピチャ音を立て、舌で頬を舐め回し、跡が残らないよう気を付けながら歯を立てた。律の頬は期待以上の弾力と滑らかさで霊幻は夢中になっていた。
(ヤバいなこれ。頬を舐めてるだけなのにすげー興奮する…本当に口の中舐め回したらどうなっちまうんだ?)
霊幻は欲にかすんでいく思考の中、律のシャツのボタンに手をかけた、その時である。ファンファンファンと窓の外からパトカーが走り去る音が聞こえた。霊幻は弾かれたように律から離れる。
「こ、ここまでな。はは…。」
霊幻の乾いた笑いが部屋に響くが、頬を真っ赤に染めぼうっとした様子の律に聞こえているかは定かではなかった。