「うおっ!すまん!」
バタン!俺は慌てて相談所のドアを閉めてその前に立ち尽くす。そうだここは霊とか相談所だ。俺の事務所なのだから俺が慌てる必要はなかった筈だ…たとえ相談所のドアを開けたら影山律がパンツ一丁で立っていたとしても。
最近律は特に呼ばれなくてもひとりでふらりと相談所に来ることがある。今日もそうなのだろう。学校帰りに雨に降られ、家よりもここの方が近いと相談所に雨宿りしにきた。そして濡れた服を脱いでる最中に俺がドアを開けてしまったという訳だ。…そもそも男同士だし慌ててドアを閉める必要もなかった筈だ。なかった筈だが…。
律は長ズボンが多い。真夏でも七分丈くらいのズボンを履いていて膝から上を見せない。俺が一度暑くないのか聞いたら無表情のまま「セクハラですよ。」と言いやがった。可愛くない奴なのだ。俺は初めて律の膝から上を、更にパンツを、その更に上の腰や薄い胸板を見た訳だ。別に見たかった訳ではない。不可抗力、仕方なかったというやつだ。何度も言うが男同士だ。興味なんぞない(そもそも相手は中学生だ。俺は中学生をそんな目で見たことはない)。だからさっきから胸がザワザワするコレは単純に驚いたからだ。いつも済まして隙のない律の、無防備にさらけ出された太ももや縦長のヘソの窪みを……具体的に思い返すのは止めよう。俺の頭の中で何かが警報を鳴らす。警報が鳴る事自体がおかしいということは無視する。
相談所のドアが内側から勢いよく開いた。ドアを開けたのは律だった。今度は塩中の体操服を着ている。下は短パンで裾からは少し筋肉のついた健康的な足がすらっと伸び…俺はそこから目を逸らした。
「すみません、雨に降られたのでここで着替えさせて貰いました。…中に入らないんですか?」
「おー構わないぜ…あれ?鍵かかってなかったか?」
「開けました。」
「お前…。」
そんな会話をしながら二人で中に入る。気の所為だろうか?律は俺を見ずにずっと俺の斜め後ろを見ている。え?なんかいるのか?…それとも照れてるのか?これは気の所為じゃない。いつもと同じ無表情なのに耳が赤くなっている…何だよその態度。それで隠してるつもりか?
「そうだ!チョコパイあるんだよ、おまえ食べるか?」
しまった、気まずくて思わず普段出さない菓子を勧めてしまった。勿体無い。
「チョコパイより洗面所にしまってあるラスクが食べたいです。」
そしてコイツは図々しい。何で隠してあるラスク知ってるんだよ。
「ラスクね、良いけど。」
くそ、何で俺が律の機嫌取るみたいになってるんだ。俺は悪くないはずだ。この後ろめたい気持ちは何なんだ。あまり考えたくない。
それから二人でテーブルを挟んでチョコパイとラスクを食べた。俺の出した菓子を美味しそうに食べる律を見ているとまぁ良いかって気分になる。パンツも見れたしな。