その日は旅立ちに相応しい朝からよく晴れた日だった。まだ寒むさの抜けきらない空気にほんのり暖かさが混じるこの季節は卒業式に、なにより影山律によく似合う。卒業証書を両手に持ち、肩や頭に桜の花びらを乗せた律を見ながら霊幻はそう思った。この近くでこれからクラスメート達と謝恩会があるらしい。その前にわざわざ相談所に出向き報告に来てくれたのだ。可愛いところがあるな。霊幻は自然に笑顔を浮かべながら言った。
「卒業おめでとう律。お前も大きくなったな…。」
実際初めて会った時は律はまだ小学生だった。霊幻の腰ほどしかない彼は、小さい体で彼の兄の師匠を名乗る男を精一杯警戒していた。それがどうだ、今はすっかり懐いてくれて…。
「ありがとうございます霊幻さん。でもこっちはこれから入学式ですよ♡」
言うが早いか霊幻の股間をむんずと掴んだ。あまりのことに霊幻は咄嗟に避けられなかった。
「待て!落ち着け律!おかしい!そんな流れじゃなかったよな!?」
「どんな流れですか?僕は初めからそのつもりで来ました。勝手に決めつけられても困ります。」
「分かった、いや分からないけど分かったから手を離せ!…揉むな!擦るな!強弱つけるな!」
「口ではそう言いながらどんどん固く…。」
「やめろ!」
空は相変わらず抜けるような青さ。入学式に相応しい日だった。