「終電終わっちゃいましたね…。」
影山律の言葉に霊幻は片眉を上げた。これは古典的ながら最近よく聞くフレーズだ。いわゆるネットミームってやつだ。こいつネットなんかやるんだなぁ。もっとももう社会人なんだおかしくないか。
何か仕掛けてくるとは思っていた。何度か解散を促そうとするのを露骨に躱されたからだ。しかしネットミームなんかに引っかかってやるのは癪だ。なんというか、勿体ない気がする。霊幻は少し胸を張り力強く言った。
「安心しろ律!社会人先輩のこの霊幻さんがタクシー呼んでやろう。金も出してやる。こうみえて稼いでるからな、遠慮することないぞ。」
律は大手企業に勤めて三年目だが実際のところ霊幻と律どちらが稼いでるかは分からない。
律はため息をつくと霊幻の目をしっかり見つめゆっくりと喋りだした。
「……霊幻さん、目の前で次々とタクシーのタイヤがパンクしたら嫌でしょう?罪のない運転手だって可哀想です。被害が出ないうちに諦めたらどうですか?」
「ヒェ…。」
どうやら霊幻の意思は関係ないらしい。こんな横暴が許されていいのか!?
…しかしじっと霊幻を見つめる律の、青筋をたてた手が時折震えることに気付いていた。いじらしい、そう思ってしまった自分に霊幻はそっと目を閉じる。
……そろそろ諦めたほうが良さそうだな。