上海退廃娼館 ソーニヤ救出篇
魔都上海の退廃せる娼館に、余の馴染みの娼妓有り。露国赤色革命より逃れ来る白系露人なりと云ふ。容貌頗る美麗にして、その質至って従順なり。ドストエーフスキイ翁の小説より借りて、余はソーニヤと呼べり。
同女の人気は大なれども、好事魔多し。過労及び薬物過剰摂取の病にてソーニヤは昏倒、人事不省となれり。余は大いに同情し、救出せんことを決せり。伝手を頼りて帝国憲兵隊に助力を求めたり。相談を受けし甘糟法務軍曹並びに大杉法務軍曹は、ソーニヤの窮状を知りて些か驚きぬ。憲兵隊に於いてもソーニヤは二百三高地の異名を以て知られたりと。
両名の憲兵を伴い上海娼館に赴けり。憲兵の威力実に大なり。楼主は容易にソーニヤの引渡しを承諾せり。半死半生の体なれば、引取りて病院に搬送し治療を加へたり。ソーニヤの衰弱甚だし。されど生命に別状無し。余等、ソーニヤの衣食住の確保に悩めり。されど奮起して日本領事館にて談判せり。大日本帝国旅券を落手し、これをソーニヤに与えたり。ソーニヤ、落涙し繰り返し感謝の言葉を述べたり。やがて無事日本に到着せりとの報を受けり。
されどソーニヤは薄幸の女なり。
後に薬物の不法所持及び使用にて官憲に検挙されたるとの事、風の便りを聞きぬ。国外追放の身となれば、行くべき所無し。阿片・薬物の魔力畏るべし。...more
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