医者になった杏じゅろ※杏視点
今生でも母を病で亡くした。俺は医者になった。医大での仕事にようやく慣れた頃、一人の少年が入院してきた。名前は冨i岡義i一。もしやと思い病棟に行くと、彼は乗り慣れない車椅子と格闘していた。深い青の瞳、少し癖のある黒髪。彼の末裔に違いない。俺は胸がいっぱいになった。
両親も弟も前の記憶がなく、俺が死んだ後の事は一切わからなかった。ただ、鬼のいない世の中になったことだけ。しかし義i一に出会ったことで一つだけわかった。一方的に恋心を抱き、告げられぬまま死に別れた冨i岡義i勇が生き抜いて子孫を残したことを。
俺は暇を見つけては義i一に声をかけた。人見知りの彼は大人しい少年で、それでも少しずつ心を開いてくれて笑顔を見せるようになった。君も笑ったらこんな風だったのだろうか。幼い義i一に義i勇の面影を重ね、かつて抱いていた恋心が再燃しそうになったとき──。「杏i寿i郎くん」
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