キラキラと輝く一番星が空にある。
青空だ。疎らに浮かんだ雲を背負うようにして、屋根の上に乗り上げている。
後光に差されたように微笑んだその人に、一瞬だけ見とれてしまった。
ズドン。
刹那、頭に穴が空いた。
○
「佐鳥が可愛いからって見惚れちゃダメだよ」
ブフッと口からジュースを吹き出したのは半崎だ。
周囲に居る面々も「おいおい」と言いたげな顔で佐鳥と修を遠巻きに眺めている。
狙撃手と射手と銃手が揃って合同訓練をしよう、と言い出したのは誰だったか。
ここ最近は防衛任務も少なくランク戦ばかりになってしまっていたので、気まぐれに攻撃手抜きでやってみよう。などという話になった。
表向きの話であって、普段的当てばかりしている狙撃手に動く的を狙わせるのが主軸である。
的が反撃してくるので良い訓練である。
「すみません、その、綺麗だなあと思ったので」
ゴフッ、と犬飼があんまりな殺し文句に噴き出した。
肩を震わせて俯く、若村はそんな犬飼の背を擦りながら「すげぇなアイツ」と呟いた。
半崎たちも同意するように頷いた。
「え〜? 綺麗かな?」
「綺麗ですよ、佐鳥先輩は、いつでも」
そう言いながら、修は口を緩めて佐鳥の手を取った。
触れられたことに嬉しそうにしている佐鳥の指を一つ一つ確認するように──まるで壊れ物に触れるようにして確かめる。
「たくさんの人を、救ってくれるんだなって」
佐鳥はいつも変わらない。
変わらない態度で人を助ける。
裏も表も誰かのヒーローだ。
「笑顔を見る度、ほんとに綺麗だなって……さっき屋根の上に居るのを見た時、救われる人はこんなに綺麗な人を見れるんだなって、ちょっと羨ましかったです」
キラキラと煌めく笑みが不安を焦がすようだった。
嵐山隊の誰であっても救われる者はみなそう思うかもしれないが、特に裏表の無い佐鳥にこそ修は感じ入るものがある。
足りないからこそ、みんなは修に工夫の仕方を教えてくれたが、佐鳥は"足りない"から補った人だ。
誰も真似出来ないツイン狙撃がその証明だった。
「え〜、やば、照れちゃう……え、佐鳥ってそんな綺麗に見えちゃうもんなの?」
「はい、カッコイイですよ、僕は好きです」
きゃあ。と佐鳥が顔をうっすら赤く染めて照れる。その様子が可愛くて修は微笑ましく思った。
「ふふ、佐鳥も三雲くんのこと好きだよ」
えっ、と修が固まる。
予想だにしなかった言葉だ。
「遠征に行こうって、その為なら貪欲に教えこうところも……壁があったって挫けそうになってもちゃんと乗り越えるところも……君だって十分ヒーローだよ」
手を取り返される。
佐鳥の手のひらに包まれた修の両手は、大きさはそんなに変わらないはずなのにどこか小さく見える。
「佐鳥が保証してあげる!」
ピカピカの笑顔に照らされて、修が「……あ、はい」と瞬きを何度も繰り返したまま固まる。
周囲に集まった人間が普通にドン引きしている横で、千佳と遊真はどこか満足気に頷いていたのだった。