過去ログ5彼はどこから来たのだろう。背の高い草の生い茂った湿地地帯に横たわる男を見下ろしながらレイスは思った。
血反吐を吐き散らしながら、うめき声をあげて必死にもがき逃れようとするこの男をレイスは知らない。名前も年齢も、どこに住んでいるかも知らないのだ。
灰を厚く塗りこめたような硬質化した足で、男の背中を踏みつける。甚振ってやろうという魂胆があったのではない。ただ、何かこの男の情報が得られるのではないか、そんな僅かな期待をかけてレイスは男の薄っぺらな背中を踏みにじった。
しかし、レイスの望むようなものは得られなかった。聞こえたのは苦痛と恐怖に咽び泣く荒い呼吸だけだ。
小首を傾げてもう一度、脊髄にそって強く力を込めて男の背中を右足で押さえ込んだ。素足の下で、背骨が軋み筋肉繊維がギシギシと引き攣るのを感じた。鋭い神経を研ぎ澄ませば、角質化した足の裏は暴れ狂う心臓の脈拍までも感じることができる。そして聞こえたのは鋭い悲鳴。
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