それは些細な出来事で「そういえば、」
思い出したように金吾が呟く。
よく晴れた初夏の青空の元、縁側でかつての先輩でもあり、皆本家の若君となった今では懐刀となった恋人の男と共にぬるくなった茶をすすりながらという、世間の血生臭さからかけはなれた雰囲気の中での一コマだ。
「なんです?若様?」
「千代から七の耳をよく見てくれって言われていたんだ、今構わないか?」
それは臨月を迎え出産のため実家の屋敷に戻った妻から言われていた他愛もない一言だ。
1つ上の妻に金吾は頭があがらない事が多い(最もそれは隣に座っている男にも、だが)のだがその頼みだけはどういった意味があるのか分かり兼ね、首を傾げた。
それを見た妻は「若様もですが七様も可愛らしい所がおありなのね」と何かを含んだような笑みしか見せず結局答えをくれはしなかったのだ。
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