転機と出会い「はぁ~どうしよ……」
ようやく魔法学校の全ての課程を修了して、卒業できた。
けれど、就職ができていない!!
ぶっちゃけめんどくさいなぁとか思いながらやっていたのもあって、やる気はなかった。それでも、色んなところを受けていた。研究所、学校、教会、商会等々……。しかし、ことごとく落とされまくった。結局、どこにも就職できないまま、卒業式を向かえたわけである。
友達と卒業おめでとうパーティーをし、とぼとぼと帰っている最中。
就職の話になり、みんなが○○魔法研究所であの魔法の研究できるの楽しみ~とか、学校の教師になれたの嬉しい~とか、××商会の護衛になって~とか話している間、苦笑いをしていることしかできなかった。みんなも私が就職できていないことを知っているから、すぐにこの話は切り上げられたが、正直胃がキリキリした。
「まじで、ほんとどうしよ……」
魔法灯の光でキラキラと輝く通り。楽しそうに談笑する人々。テラス席で楽しそうにお酒を飲む人々。いつのまにやら、飲み屋街に来ていたようだ。
酔っぱらいに絡まれる前に、早く帰ろうとした矢先。
「そこのお嬢さん!」
左側から声をかけられた。
そのまま無視して立ち去ればいいものの、呼ばれたことで不意に足を止めてしまった。これではもうロックオンされてしまっている。
「は、はい……な、なんでしょう」
ギギギッと機械仕掛けの人形のように左に顔を向ける。
そこにいたのは、すぐに出来上がっているオレンジ髪の女の人。完全に酔っぱらっていて、べろんべろん。机には空き瓶や空き樽などが散乱している。
うわぁ、めんどくさいのに声をかけられたぁと思いつつ、笑顔を顔に張り付けて微笑む。うまく笑えているだろうか。
「何かお困りときた! この大冒険者のお姉さんに話してみなさい!」
冒険者という言葉に、彼女の服装に目がいく。確かに冒険者らしい武装を解除した旅の服装、腰には剣、小さめだが杖もある。
このまま立ち去るわけにもいかず、私はその女の人の前に座る。
ジョッキに注がれた麦酒を呷って、ぷはぁーと美味しそうな声を漏らしたお姉さんは、完全に酔っぱらいの目をこちらに向けながら、ニヤニヤとこちらに笑いかけてくる。
「見たところ、君、魔法使いだろう? でも、その様子からして最近学校を卒業したばかりの新人。でも就職先がなくて困っているときた。どう?」
「……いや、その通りです」
酔っぱらいとは思えない洞察力に感心すると同時に、事実が胸に突き刺さり、悲しくなる。いつになったら、就職できるのか……。
「それならさ、冒険者はどうかな? 冒険者はいいぞ!」
お姉さんはガタッと立ち上がり、椅子に足を乗せて、演説のように力強く言葉を紡ぎ始めた。
「嵐の海! 深い森! 溶岩迫る火山! 冒険者は依頼があれば色んな所に赴く! 普通の街でも依頼もあるけれど、やはり冒険者といったらロマン溢れる旅だよ!」
目をキラキラと輝かせながら、これまでの旅の依頼の話をするお姉さんに、私は引き込まれていった。
結局、閉店時間ギリギリまで話を聞いてしまい、優しいお姉さんに家まで送ってもらってしまった。本当に酔っぱらいか?
シャワーを浴び、布団に潜り、さっきまで聞いていた話を思い出す。
冒険者。選択肢の中にはあったけれど、やはり危険な職業であるから、自然と除外していた。やりたくない仕事の方に入るカテゴリだった。
けれど、お姉さんの話を聞いて、胸を躍らせ興味を抱いている自分がいた。
嵐の海。深い森。溶岩迫る火山。
スライム、ゴーレムなど下級モンスターからドラゴンなどの上級モンスター、そして、魔王軍と呼ばれる天上から現れた異人たち。
様々な場所で様々な依頼をこなし、時には強大な敵とも戦う。
心踊る自分がいた。
それに魔法は役に立てるんじゃないのか?
現に、冒険者になるといった同級生もそこそこいた。就職の道として悪くはない。依頼があるかは別にして、ギルドに登録さえすれば誰でも冒険者だ。
「よし!」
善は急げ。
ベッドから起き上がり、さっそく準備をし始める。
普段、優柔不断の癖に、たまにとんでもない行動力を発揮するが、今回もそうらしい。
***
「でっか……」
次の日、家を飛び出し、ギルドへと向かった。私の街にもギルドはあったが、行くなら一番大きいギルドがいいと思ったから、この国の首都にあるギルドへ。馬車を乗り継いで一日で行ける距離だったのが幸いした。
ギルドの前で立ち尽くす。中にも外にも色んな人ーー冒険者がたくさんいた。剣士、武闘家、魔法使い、錬金術師、吟遊詩人……。
様々な人が依頼を求めてギルドへ入っていったり、これから依頼に向かうのかパーティのみんなでぞろぞろで出てきたり。
そんな人混みの中で、一つ深呼吸をして、一歩を踏み出した。
緊張しながら、受付でギルド加入の手続きをして、冒険者カードが渡された。これで私も今日から冒険者だ。
カードを手に取り、少し心躍らせながら、依頼ボードの前に向かう。
たくさんの人でごった返す中、今からでもできそうな依頼がないか、確認するが、今のところは私のレベルでできるのはパーティ限定だった。
「どうしよ……」
魔物退治だった場合、パーティ的には私は後衛だから、前衛がいた方がいい。誰かに声をかけるのも緊張するし、冒険者になりたてでいきなりパーティーを組んで戦うのは無理がある気がする。
ギルド加入しただけでも今日は偉かったし、また出直して一人でもできそうな依頼が出てくるのを待つしかないか。
ボードから目を離し、その前の人混みに目を向ける。男だらけの中、一人混じっていた女の子。可愛らしいベレー帽を被り、手にはハープを持っている。吟遊詩人だろうか。
同じように困っている者同士で組めば、なんとかなるかもしれん。
「うーん、困ったなぁ……」
案の定、彼女は困ったような様子でクエストボードを見ていた。
「あの……」
勇気を出して、彼女に声をかけた。
この出会いが、私の人生が変わる瞬間になるとは思いもせず。