だっておまえの匂いと言うから「風息、街でお前の匂いが入った瓶が売っていた」
「……なんて??」
虚淮の言葉にはいつも丁寧に耳を傾け、できるだけ咀嚼してから丁寧に受け答えをする風息も、この時ばかりは率直にそう返した。
聞こえなかったわけではないが、意味がよくわからなかったのだ。だが、繰り返された説明が先ほどと一言一句変わらず同じものだったので、風息は読みかけの文庫を閉じて、しっかりと相手に向きなおった。
「もう少し詳しく」
たぶん、どこかに出かけていたのだろう。現代服に身をつけた虚淮は、見覚えのあるロゴの紙袋を持っている。お茶飲むか、と一応問えば、虚淮はひとこと「飲む」と頷いて、風息が座っていたソファの隣にすとんと腰掛けた。
果たして、かいつまんで聞いた話はおおよそ以下の通りである。
1963