勇者視点の主(→)シル何となく眠れなかった。理由はわかってる……明日、ここから出なきゃいけないからだ。
「……」
家を出てそのまま橋を渡る。見回りの人以外は誰もいない。そりゃあ夜だからほとんどの人は寝ている。
「何で僕なんだよ」
誰もいないってわかっていてもつい小声になってしまった。だって聞かれたくはなかったから。僕に期待をしてくれている皆をガッカリさせるのは嫌だったから。
「でも言いたくなるだろ……急にそんなこと言われたらさ」
村の中心と外へ向かう境目に着いた時、微かに声が聞こえた。声の方へ瞳が動いたけどその瞬間は何とも思わなかった。何故ならここから見えたのは見回りのおじさんだけだったから。
だけど、どうしてかはわからないけど、いつの間にか歩いていた。
いつもと違う……何かがあるような気がしたから。これも勇者とやらの勘なのだろうか? まぁどうでもいいや。
「……あ」
おじさんと話をしている人がいる。あれは誰だろう。向こうにいるってことは、この村の人じゃない。
「あら♡」
「ん? イレブン……こんな所で何をしているんだ?」
「え? あー…寝れなくて散歩してたんだ」
「そうか、明日は大事な日なんだ。早く帰るんだぞ?」
「わかってるよ」
「……お話が終わったのなら、続けてもよろしいかしらん?」
「続きって?」
「ついさっき急に現れた旅の途中の人らしいが…」
「やっぱりダメかしら?」
「え、別にいいんじゃ」
ないの?って言いかけて、その人を見るとーーーー何も話す事が出来なくなった。
だって、とってもきれいなひと、だったから。
「明日は朝から村総出で行う事があるんだ。すまんが……」
「村人ちゃんにとって大事なことなら仕方がないわねん……」
「え、でも、夜に1人は」
「ふふ♡心配してくれてありがとうカッコいい坊や♡アタシはずっと一人旅をしてるから魔物ちゃん避けの知識はある程度はあるわよん♡でも心配してくれてありがとう……乙女心がキュンキュンしちゃったわ♡」
「でも綺麗な人を1人にするのは…」
「まぁ!綺麗だなんて……嬉しいわ♡ありがとう♡」
綺麗な人のほっぺが綺麗な赤色になって、なんか……可愛いなぁって思った。それに僕の事をカッコいいって……へへ、嬉しいなぁ。だから余計に思ってしまったんだ。
「……明日じゃなければ良かったのに……」
明日出発じゃなければ、うちに招待する事も出来たのに。
「?」
「あ、ううん、何でもない!ごめんね!」
それから僕はおじさんに早く帰るように急かされて、追い出されてしまった。なんだよ……もう少し話しても良いだろ!
チラッと振り返ると僕に気付いたあの人が手を振ってくれて。さっきまでムカついていたのに、綺麗さっぱり無くなってしまった。すごい……あの人は魔法が使えるんだろうか?
「……あ、そっか」
村の中心へと向かう途中にふと思う。明日旅に出たら、あの人とも会えるかもしれない事に。
「……へへっ」
いきなり勇者と言われ、村を出て、デカい国行かないといけないといったよくわからない事に正直モヤモヤしていたけど、勇者だってわからなかったら今日みたいな事も起きないで、あの人に会えなかった可能性もあったんだ。
「少しだけ楽しみになったなぁ」
急に足取りが軽くなる。楽しみが見つかるだけでこうも変わるんだな人って。
「あ、エマがいる」
エマの元に行くまで僕の頭の中はあの人の事でいっぱいだった。また会おうね綺麗な人!
「名前……聞いてなかった……」
なんてもったいないことをしてしまったよ僕!
終わり(一応)