甘すぎると別の場所が痛くなる三年伸ばした髪を切った。その間、当然だけど夏が三回あって、どうやって暑さをやり過ごしたのか、まったく思い出せない。
したを向いて作業していると、伸びて耳にかからなくなってしまった髪がはらりと顔にあたる。なんとか耳にかけようとすると、別の手が伸びてきて、後ろから髪を整えてくれた。
「ありがとう」
「いいや。あんた、髪伸びたなあ」
「そうね、切りたい」
「……もう、昔のようには伸ばさないのかい」
「うーん、つい切っちゃうんだよね」
びっくりするくらい嫌なことがなければ、人間は髪を伸ばせないのよと私は口の中で言った。要は復讐で伸ばしていたので、あまり褒められたものではなかったけれど、その頃を知らない大般若は、私の長い髪を結構好きでいてくれたらしい。私も大般若のことを、髪が長いということで親近感を持っていた。長いとこれが困るよね、とか、ご飯食べる度に髪をまとめるのが面倒だ、なんて話したのがきっかけで、まあまあ仲良くなれたと思う。そのうちにやれオイルだやれ髪飾りだと、気の利いたプレゼントをもって足繁く私のもとに訪れては、大般若は私の髪をいじり倒していた。戯れにしては、じっとりとした視線だと気付いたのは私が伸ばした髪を切る頃だった。
いまはクリッパーで剃った、首のしたの方、つまり髪の生え際に手を入れて、しょりしょりとその感触を楽しんでいる。うなじのあたりなので大変こそばゆい。
「なあ、もし俺が見たいって言ったら、あんたはまた髪を伸ばしてくれるのかい?」
「……まあ」
「そりゃあ、嬉しいね」
さら、と髪の生え際から毛先に手を滑らせて、大般若長光はそんなことを言った。照れかくしなのか、私の首許に顔を埋めてくる。
「ちょっと、暑い」
「甘くていい香りがするなあ。どれ」
「大般若!」
照れかくしは私だけで、つんとした答えをしても、大般若はその形のいい額をぐりぐりと首に押しつけてくる。
可愛いわ、くすぐったいわでたまらず体勢を崩した私に、悪い悪いと言いながら身を起こし、大般若はにっこり笑って、また覆い被さってきた。私の顔や耳や首に、大般若の髪や耳や口や鼻があたって、こそばゆくて目を固く瞑る。大般若はわたしの鎖骨のあたりに顔を埋めたかと思ったら、わざと息を大きく吸い込んで、おまけとばかりに、ぺろりと舐められた。
「うん、甘い」
その声が甘くて、鼓膜が痺れて、動けなくなる。