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    nbymk02

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    書き初め?感覚で久しぶりに戦闘描写練習〜
    ディルとおライト先輩のバトルを書きたかった。

    ##神組

    ひゅ、空を切り裂く音を伴い、投擲された二本のナイフが迫る。
     一つは目を、一つは喉を。人体の急所を確実にねらったそれは、弾丸と見紛う速度で一直線に走り来る。
     
     ――風よ!

     明確な殺意をもって放たれた狩人の牙。ディルは腕を横に振るい迎撃する。動きに伴って生じた空気のうねり。圧縮された大気が風の障壁となって攻撃の威力を削ぐ。そうして速度を弛めた二つの刃を身を捻って掻い潜ると、ディルは再び振るった腕を十字に切る。生じた十字の二つの風牙が、こちらも弾丸の勢いでライトへと迫る。

    「おっと」

     周囲の空気を取り込み、迫るほどに大きくなる風の刃。それをライトは身を翻してふわりと躱す。と、同時に再びの投擲。今度は先程の倍以上。五つのナイフを同時に放った。

    「くっ」

     五つの刃は回避行動の最中に放たれたにもかかわらず脅威の精度をもって、今度はディルの機動を削ぐべく脚を、それも腱を狙ってくる。
     無限の再生能力を有しているディルであっても、肉体の損傷が起きてからそれを再生し、再び行動を開始できるまでには在る程度の時間を有する。脚をやられてしまえば、再び行動できるほどに再生をするまで、しばらくの間身動きがとれなくなり、相手にとって格好の的となってしまう。それは避けねばならない事態だ。
     加えて、ライトの攻撃を受けてはならないもう一つの理由がある。彼の持つ『支配』の能力。それが非常に厄介なのだ。血に触れた相手を意のままに操ることができる力。彼の投げたナイフが少しでも身体を掠め、血が付着したならば。たちまち肉体の主導権を彼に与えてしまうこととなる。その瞬間、敗北が確定してしまう。
     ディルは跳ねるように地を蹴り、後方へと退避する。そんなディルの行動を予期していたのだろう、否、誘導されていたと考えた方が自然かもしれない。ライトは五本のナイフを投げた後、よりゆるやかな角度でもってもう一本を放っていた。それは後方へ跳ね、着地をするまでの僅かな隙を貫く。空中で身動きのとれない、ディルの胸元を抉る為の一刀。

     ――ガギィン!

     金属と金属がぶつかる歪な音が響いた。金属音を予測していなかったのだろう、ライトが僅かに眉をひそめる。放たれた一刀を受け止めたのは銀色に輝く銃身。ディーナより預かり受けた、彼女の銃だった。
     内心で唾を吐くライトへ、ディルはその銃口を真っ直ぐに向け弾丸を放つ。身体を底から奮わす炸裂音とともに、放たれた鉛玉が空を切り疾る。
     反撃の一砲。しかしそれは、すんでの所で届かない。瞬く隙も与えずに眼前へと迫った弾丸を、ライトは驚くべき反射・瞬発力で見切り、回避したのだ。

    「あっぶな~。もう少しで当たるところだったよ」

     軽口を叩くような、飄々とした口調が語りかける。言葉とは裏腹に笑みを含んだ表情からは余裕すら感じられる。

     ――化け物かよ。

     ただの人間のくせに、なんて強さだ。底の見えない相手に戦慄すら覚える。
     戦況は拮抗。互いに無傷。戦いが長引けば、それだけ体力の限界があるライトに不利になってゆくはずだ。しかし、どうしてだろうか。攻防を繰り返す度に、まるで自分が追い込まれているかのような錯覚が起きる。じわじわと、でも確実に、身体を毒に蝕まれているかのような。どこまでも果てのない、無限の砂地獄にとらわれているかのような。このままでは勝てない。戦う為に造られた本能が警鐘をならす。ひやり、背中を冷たい感覚が流れ落ちた。

    「もっと本気で来なよ。じゃないと、本当に君、俺に殺されちゃうよ?」

     穏やかな声色からは到底信じがたいほどの殺意が、放たれた言葉の端々からひしひしと伝わる。

     ――殺されてたまるものか。

     銃を握る掌にぐっと力を込める。
     目の前の敵をしっかりと見据え、意識を集中させる。状況を打開するために出来ることがあるはずだ。

     ――考えろ、導き出せ。

     己の身体に刻まれた、戦い生き抜くための術。それらをすべて呼び起こし、答えを探す。

    「……来ないの? じゃあ、こっちから行くよ」

     動きを見せない敵の様子に、まるで興が削がれたとでも言いたげに。表情に気怠さを纏わせてライトが動く。袖口から無数のナイフを手元に滑らせ、放つ。同時に自身も勢いよく地を蹴ると、こちらに向かって走り出す。ナイフによる遠距離攻撃から接近戦に切り替えるようだ。どうやら、本当にけりをつけるつもりらしい。
     飛んでくるナイフの軌跡を開いた両目でしっかりと見据え、ディルは向かい来る凶刃の雨に飛び込んでゆく。纏う風はすべて己を突き動かす追い風に。身を守る事は捨て、猛攻を真っ向から迎え撃つ。迫る攻撃に向かって進む、そのためナイフは音速に迫ろうかという勢いで近づいてくる。それでも、研ぎ澄まされたディルの瞳はその動きを確かに捉えていた。

    「!」

     あれだけの攻撃のすべてを相手が完全に見切るとは。そんな驚きにライトの瞳が開かれる。攻撃を抜けたディルがその眼前に迫る。想定以上の動きだった。先程まで真横に結ばれていた唇の端が、ゆるやかに弧を描いてゆく。

     そして、数拍にも充たない間をもって二人の距離は零となる。
     ディルは自らの背中を押していた風を一瞬で指先へと収束させて鋭い爪を形成。衝突の勢いそのままライトの右側めがけて振り下ろす。対してライトは一本のナイフを手に反撃を狙う。周囲の空気を巻き込みながら、巨獣の腕(かいな)と化した風の斬撃を僅かな身を捻りでもって躱すと、そのまま右手に構えたナイフを無防備な腹部へと突き立てる。
     しかしそれはディルの衣服を引き裂いただけで、彼自身は攻撃の瞬間に跳躍、空中での前転でもって回避する。着地と同時に身体を回転させすぐにライトへと向き直る。その瞬間、すでに再び振るわれていたナイフの刃先が眼前に。反射的に半歩身を退けて躱す。次の瞬間には、ライトの左腕から逆手に握られたナイフが突き出される。
     攻撃に一瞬の隙もない。行き着く間もない猛攻だ。こちらが攻撃を仕掛けられたのは最初の一手だけ。それを避けられてからは防戦一方である。
     投げナイフによる遠距離攻撃が得手と思わせて、近距離による肉弾戦もお手の物とは対したものだ。傷が付けば即こちらの敗北が決まる『支配』の能力は恐るべきものだが、その能力だけに頼らない彼自身の戦闘能力もかなりのレベルである。優れた能力を確実に行使するための強さを彼はしっかりと有しているのだ。
     
     だが、だからといって負けるわけにはいかない。
     喉元めがけて振るわれた刃。能力の発動のために傷を付けることを目的とはせず、気道を引き裂き殺すことを目的とした決殺の一撃。
     迫る攻撃を、ディルは避けなかった。閃いた切っ先。皮膚を断ち、鮮血が迸る――その光景に代わって、ライトが開かれた左目をさらに大きく見開いた。
     振り払った筈の腕が、すんでの所で押し止められている。喉を裂いた筈の攻撃。その刃は紙一重でディルには届かない。刃の先端、そのほんの数ミリの大きさを受け止める為に、限界まで圧縮された空気の塊が盾となって攻撃を防いでいた。

    「!」

     喉を狙う相手の攻撃、それだけを防ぐことに特化した最大限の守り。ライトが喉を狙うことを予測し、それに賭けたのだ。万が一、読みが外れればその瞬間敗北が決まる。決死の賭けだった。
     避けるのではなく受け止める。それによって一切の隙を生じずに、次の攻撃が可能となる。ライトは一歩退いて距離を取ろうとするも、もう遅い。ディルの腕がその胸元を掴む。回避が出来ないことを判断したライトは、手にしたナイフを再び振るう。この距離であれば攻撃を避けることが出来ないのは互いに同じだ。より速い方が状況を制する。

     先に振るわれたのはディルの右腕だった。
     握りしめた拳を風による後押しでもって思い切り振り抜く。シンプルにして強力な一撃はライトの頬を鮮やかに打ち抜いた。

    「――――」

     殴られた勢いのままライトの身体はぐらりと後方へよろめく。掌から滑り落ちたナイフが、キインと音を立てて地面に転がった。
     ぐらり、ライトの身体は重力に抗えず崩れ落ちてゆく。そのままゆっくりと、地面へと倒れ込む――――かと思われたが、勢いよく踏み込んだ脚がそれを拒んだ。
     
    「ハ、ハハ……。やる、じゃん」

     口元の血をぐいと拭い。こぼれたのは笑み。脳を揺さぶる攻撃をうけて、なおも立ち。この男は笑っている。なんと末恐ろしいことだろうか。終わらぬ戦いの気配になおも身構えて、ディルもまたぞくりと背筋を駆け抜ける怖気にも似た高揚感に口元を歪めた。
     再びナイフを構えたライト。直ぐに来るであろう攻撃、それよりも先手を打つべくディルは走り出す。
     迫るディルへ向けてライトの腕からナイフが放たれてゆく。その時だった。

    「ストップストップ! そこまで~!」

     剣呑とした戦場の空気をひとつのかけ声がばっさりと両断した。
     ぴたり、殺気を放ち合っていた二人の動きが止まる。

    「――模擬戦闘なんだから、そこまで本気にならないでよね。二人共」

     戦いを止めた声の主は、呆れたようにため息をついた。長く艶のある桃色の髪を揺らして、放っておけば決着が付くまで戦いかねない二人の間に割って入る。

    「そう堅いこと言うなよな、サクラ。一度ちゃんと決着つけておきたいんだよ。ディルもそうだろ?」

     ライトの声にディルはこくりと頷く。そんな二人の様子にサクラは再び、加えて大げさに息を吐いた。

    「まったくこれだから……。決着はもうついたでしょ。ディルに一撃食らった。あの時点でライトの負けよ」

    「なんで」

    「いいから、負けなの。あきらめなさい」

     不服そうなライトを有無を言わせぬ気迫で黙らせると、サクラはくるりと踵を返す。

    「もうこんな時間だし、私は先に戻るけど……投げたナイフ、ちゃんと全部回収してから戻って来なさいね」

    「はぁい」

     すたすたと行ってしまったサクラの背中を見送って、残された二人は周囲を見やる。残った戦いの跡。辺り一面に散らばり、突き刺さったナイフが夕日に照らされて輝いている。ため息を一つ、ライトは腰を屈めて静かにそれらを抜き始めた。

    「お前、いつもこんなことしてるのか」

     どこか哀愁を感じる丸まった背中に、ディルはぽつりと呟いた。
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