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    nbymk02

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    フォロワーさんから再びお題をお借りしました!今回は1000字以内に短くまとめる目標を達せたのでよかったです。

    紅茶 ふと、戸棚の中に銀色をみつけた。ようやく重い腰を上げ、身の回りの整理をしようとした矢先だった。厚さニセンチ程度、大きさ十センチ程度の、小さな丸い缶だった。シックなイラストの描かれたパッケージに「Darjeeling」の文字。どうやら紅茶の缶らしい。おもむろに裏返して、書かれた文字を流し読む。成分やら生産国やらの表記の下に、記された半年前の日付。消費期限はとうの昔に切れていた。
     同じ戸棚の中に、一式の紅茶器具がそろっていた。どうしようか、少し考えて思い至る。それらをすべてテーブルに並べて、電気ケトルのスイッチを入れる。最新式の家電は便利だ。しゅんしゅんと音を立てて、すぐに湯がわき上がる。
     蓋を軽くひねると、茶と緑が混じったようなくすんだ色彩。反して鮮やかな香りが鼻孔をくすぐった。期限切れの割に、澄み切った芳香は心地よく、新鮮さすら感じる。ティースプーンですくって、ポットの中へ。沸き上がった湯をすぐにそこへ注いだ。勢いよく流れ込む水流に、透明なティーポットの中で茶葉が跳ねる。砂時計をひっくり返して、それを眺める。細く縮まった身体をゆっくりと広げながら、たゆたい踊るそいつらは対流のままにくるりと舞い上がり、やがて底へと沈んでいく。
     琥珀色に染まっていくポットをぼんやりと見つめる。紅茶が注がれるそのときを、傍らで静かに待ちわびるティーカップ。アンティークな花柄のデザインのカップとソーサーは自分ではけっして選ばないデザインだ。二組あったもう片割れは、戸棚の奥でひっそりと、こちらを見下ろしている。どうしてだろうか。思い返される在りし日々。さらさらと落ちる砂時計。今か今かと楽しげに、零れゆく時間に瞳を細める。そんな面影が見えた気がして、どきりと指先が跳ねた。
     時計の砂は、とっくにすべてこぼれ落ちていた。空っぽになった上半分の下で、頂点のつぶれた三角形が積みあがっている。はっとしてポットを傾ける。注ぎ口から勢いよく飴色がカップへと流れる。すっかり開いた茶葉たちが、巻き上げられて共に注がれていった。
     テーブル上の寂しげなティーストレーナーを横目に、漸く完成した紅茶。一拍おいて、カップを口元へとはこぶ。目の覚めるような香りのあと、ぬるく、渋い味。口内に含んだ茶葉が舌先に煩わしさを残した。
     ひとり、笑う。
     ああ、彼女の紅茶は美味しかった。
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