きみはのらいぬ 九井が職員室に呼び出されたのは、金曜日の放課後だった。まだ若い、新卒でこの高校に採用されて三年目の、いまどき珍しい熱血教諭というやつだ。正義感があり、教育熱心で、それでいてユーモアもある。イケメンとまではいかないが、そこそこに容貌もよいため、生徒から莫大な人気がある。そんな彼は、いわゆる優等生である九井を呼び出したことに、申し訳ないと謝った。呼び出したのは、おまえのことじゃないんだ。彼から呼び止められた時点で、ある程度のことは察している。
「じつは乾のことなんだ」
そうだろうな。予測していた九井に、ほっとしたような顔をして彼は頷いて、そして溜息をつく。
乾青宗。
彼の名をこの高校で知らぬ者はいないだろう。
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