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    熊隼(1521字)
    モブ生徒のカップルが出てきます
    2023.12.6修正

     生徒会へ特殊能力者の居場所と能力を伝えたあと、そのまま保健室へ向かう。髪や服を乾かす時に生徒との遭遇を避けるために、またドライヤーや替えの制服を置いておくのに便利な場所だった。
     扉を開け入室すると、水に濡れた姿を見た養護教諭が入れ替わりに保健室から出ていった。星ノ海学園の教員は組織の活動をおおむね把握しているため、このような時にも説明の必要はない。
     ドライヤーをかけながら先ほど伝えた能力者について考える。友利たちの動向は今回は目時たちが追っている。相手も強力な能力ではない。今日はこのまま研究施設に戻っていいだろう。
     扉の開く気配にドライヤーをオフにし振り返る。女子生徒がふたり、中を覗いていた。入室しようかまごついている様子だ。ドライヤーを片付け、髪をまとめて結い保健室をあとにした。
     女子生徒ふたりは安心したような顔をし、そそくさと保健室のなかへ消えていった。直後、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。
    (サボりか……)
     おそらく養護教諭が保健室を離れたのを見てやってきたのだろう。そういえば手を繋いでいたように見えた。
    (…………逢引か……?)
     だが組織の人間でもなんでもない生徒たちだ。この星ノ海学園で守られている、ただ高校生活を送っているだけの。どのような理由で保健室を使おうと、授業を欠席しようとも関係のないことだった。生活態度や素行は組織が手を出す領分ではない。
     生徒同士の交遊などなおさら。
     玄関へ進む途中、しんとした廊下にすれ違う者はない。休み時間には響く騒がしさも授業中は違う場所のように静かだ。それ故に小さな声は耳に届いた。階段の陰、床に映る上履きはふたりぶん。今度は男子生徒と女子生徒だろう。
     顔も向けずそばを過ぎ去る。しかし、そこら中に監視カメラがあるなかでよくやるもんだ。ただ抜けているのか気にしないのか、それともそんな場所でさえ逢瀬を遂げたいものなのだろうか。
     
     古木さんの車を降り、研究施設の扉までの坂を登る。入口から階段を降りエレベーターで地下へ降りる。そして隼翼の部屋へ向かう。天井の高い廊下にひとりぶんの靴音が響く。部屋の自動ドアが開ききるのを待たずに中へ。ノックは必要ない。
     正面のソファにも机にも隼翼の姿はなかった。と言うことは。
    「おかえり、プゥ」
     横に顔を向ければ隼翼が待っていた。身体ごと向き直ったのを感じたのか両手を広げる。感動の再会、でもなんでもなく……ただいまのハグだ。
    「ただいま」
     腕に触れ、背中に手を回す。隼翼の腕が身体を包み、ギュ、と力が加わる。数秒もせず身体を離すが、その短さでもなにか暖かいものを感じた。隼翼の体温か、鼓動の速さか。
    「まだ湿ってる。ちゃんと乾かさないと風邪引くぜ」
    「ああ…」
     保健室も人気がないわけじゃない、他を探してみるか。考えてみると、学校のなかに人の来ない場所など無いように思えた。
     くっついたままでは自分の服も冷たくなってゆくはずの隼翼はまだ離れずにいる。腰に触れていた手が服を掴む。
     隼翼の頬を包み、指で耳たぶを撫でる。
     いつのまにか、こんなことがわかるようになっていた。
     目を閉じた顔を見つめた。
     唇を重ねる間、どこよりも静かな場所にいるように思えた。
     離れた距離を惜しむ顔は仄かに紅く染まり、しかし満足しているように笑んでいた。服を掴んでいた手が緩み背中を包み、まだ足りないという色を見せる。
     はじめは個室でだけだった。
     ふたりきりを許す場所が増えていった。
     こんな場所でさえ。
    (俺も同じか……)
     向き合う顔に影が落ちる。
     次に瞳に映る時には最高の笑顔が待っていた。

    おわり
     
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