.爆音とともに屋根を突き破って現れた、魔女というよりは私の世界では妖精に近いイメージのその少女はアリスと名乗った。スノウとホワイトと同じくらい長生きな魔女だけど、いろいろあって退屈して冬眠していたらしい。せっかくの眠りを妨げられて、つまらない用事だったらただじゃおかないって思ったけど賢者の魔法使いへの抜擢なんて面白い! ……とのことで(面白い???)、賢者である私が女性なこともあって一瞬で気を許してくれたようだった。
「では改めて、よろしく賢者さま。北の魔女アリスがあなたの魔女である限り、なーんにも心配は要りませんよ。怖いこと、不安なこと、嫌なこと、痛いこと、ぜんぶからわたしが守ってあげる、ぁ痛ッ」
露出が多いのか少ないのか不思議な衣服を纏ったアリスが膝をついて、私の手を取る。そっと指先に口づけられそうになった瞬間、アリスさんの後頭部に衝撃が走った。ミスラさんだ。
「なに無抵抗にされてるんですか。嫌がってください」
「い、嫌がるなんてそんな……」
「その女の唇に触れると気が触れるんです」
「ミスラのだじゃれ!」
「殺しますよ」
「こわ、賢者さま助けて」
さっき守ってくれるって言ったじゃないですか! なんてことを魔女に言うのは無駄だって、今までの魔法使いとのかかわりでわたしはよくわかっている。しかしぱっとみ、私よりも小さな少女の姿をしたアリスさんにミスラが凄んでいる様子はどうしたってアリスさんへの同情心が湧き上がる。
「か、かわいそうじゃないですか。やめてあげてください」
「賢者さま優しい! やっぱり忠誠のキスを贈らせて。だいじょうぶ、このリップは昔むかしミスラが誘惑された毒なんかじゃあなくって人間が売ってた人間のやつだか、痛ッ、なんで叩くの!」
……いろいろあったんだろうなあ。深く突っ込まないことに決めた。