今、この瞬間たけは 城内ですれ違う者たちは平然と過ごしている――表面上、ではあるが。
ひりひりと張り詰めた空気は重く、肩にかかって息が詰まる。
眩しい日が城を照らしても淀みが消えることはない。
皆、気持ちの整理に時間が必要だった。
宛城で張繍から曹操を救出して数日経った。
命からがら帰還できたものの、少しでも遅れていたら今この世に曹操はいなかった。
血を分けた息子、親類、忠臣の典韋が犠牲になり命を落とした――いや、捧げたのだ。
彼が思い描く天下のために。
曹操ひとり生かした代償は大きかった。
悲しみに暮れる者もいれば、復讐に心を燃やす者もいた。それは当然だと思う。
でも自分にはそこまで込み上げるものがなかった。
悲しくないと言えば嘘になるが死んだという実感が湧かないのだ。
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