その夜の三木の姿に気が付いたのは、クラージィだけだったろう。
勤め先の猫カフェのシフトを終えたクラージィが外へ出れば、町は吸血鬼の時間だった。人間との比率が昼と逆転している。この国の都会の夜はかなり眩しいものだと映像などで見知っているが、新横浜の夜もなかなかに明るい。ただし歓楽街のギラギラした眩しさは限られている。生活の灯りだ。
主に活動するのは吸血鬼なのだから、そんなに灯さなくてもよいものだが、時間帯が同じ人間がおり、また享楽的な者たちには、この眩しさも良いらしい。
深夜でも人通りの絶えない中を歩けば、クラージィは一介のモブとなる。
かつて教会を追われ、慣れぬ土地を転々とし、寄る辺のない身は異物であった。行く先々の村で、代り映えのない生活にその晩の話題を与える者であった。
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