『光で教えて』暗い、新海のように深く静かなる宇宙を一機のロボットが泳ぐように前進する。
そのパイロットであるブレイバーンは真っ直ぐにたった一つの星に目掛けて、直進する。
「……あの星まで何日かかるだろうか」
ブレイバーンは、ブースターのように燃える色の髪をなびかせ、エメラルドグリーンの瞳を大きくキラキラと輝かせ、鍛え上げた肉体でしっかりと操縦桿を握る
目指す星が近くなるのが待ち遠しくてしかだがないと、サンタクロースを待つ子供のように明るくその日に真っ直ぐに向かう。
「なッ!」
障害物も何も無かった。
あるのはあの星への一直線のルートのみ
なのに、ブレイバーンを嘲笑うかのように突如として現れたブラックホールが黒く大きな口を開き、パクリと一口で一機のロボットとブレイバーンを呑み込んでしまう。
"あと少しだったのに!"
"帰りたい!帰りたい!"
"あの星に!地球に!!!"
届かないとわかっていてもブレイバーンは操縦桿を強く強く前へ一瞬でも前へ、青く美しい地球に手を伸ばす。
"帰りたい"
ただその一心でブレイバーンの目の前が真っ暗になった。
◇
イサミは地球の人々に愛と勇気の光を灯す存在だった。
それは例え、外から来た宇宙人でも困っているならば手を伸ばし
両手でそっと救い上げた"ナニカ"を優しく光で満たし傷ついた生き物を癒す。
『……私は……』
「大丈夫か?私の名前はイサミ
皆にこうして光をお裾分けしているんだ
君の名前は?」
うねうねとイサミの光でも照らせない闇のような"ナニカ"を優しく照らし癒す。
『……名前……』
「そう、君の名前だ」
『名前……名前……思い出せないんだ
私は……"ナニ"なんだ?』
困ったことにこの宇宙人は自身の名前も形も忘れてしまったらしい。
そういう困った人を照らすのがイサミの生き甲斐だ。
「これはなんだい?」
イサミは優しくそっと、宇宙人に闇に埋もれた何かを指し示す。
『……これはなんだろうな?』
宇宙人さんはそのチェーンを引っ張り、闇から自分でそのドックタグを見つける
『……ブレイブ……バーン
……ブレイバーン……ああ、懐かしい名前なような気がする』
「きっとそれは、君の名前だブレイバーン」
『イサミ、君のおかげでそんな気がしてきた
……私の名前はブレイバーン、そう、そんな名前だった!』
ブレイバーンは形を失ったままうねうねと嬉しそうに自身の名前を連呼し、イサミの名前も連呼しながらイサミと同じ形を取る。
『ありがとうイサミ、おかげで私の名前を思い出すことができた』
「それは良かったんだが、おまえ
私の形になってしまってるぞ?」
ブレイバーンがイサミにより、イサミとそっくりな形になってしまったブレイバーンを写し出す。
『私はこんなに美しい女神だっただろうか』
「美しい女神って、おまえ……俺は男だから
せめて男神と言ってくれ……聞いてないな」
ブレイバーンはほわほわとイサミをじっと真っ直ぐに見つめて聞いていない。
「……まあ、おまえが元気なら良いんだけどな」
『……イサミ、ありがとう』
「どーいたしまして……んで、帰る場所はあるのかおまえ?」
『……イサミ、大変だそれも覚えていないんだ
どこかに帰りたくて帰りたくてこの星に来たのだが
私の家はどこか知っているかイサミ?』
「すまないな、それは俺も知らねえんだよ
心配するなって、ちゃんとおまえが満足するまで探してやるからさ」
迷子の子供のようにしょんぼりするものだから、イサミは光の飴を作りブレイバーンにプレゼントする。
『甘い!美味しい!』
キラキラとイサミの蜂蜜色の瞳がパチパチとエメラルドグリーンへと変わる。
どうやらそれがブレイバーンの本当の色のようだ。
「さあ、私と一緒に空から探そうブレイバーン」
『ああ、イサミ!君とならどこまでも一緒に行きたい!』
イサミはバサッバサッと金色の翼を大きく広げ、ブレイバーンと手を繋ぎ星が輝く大空へと飛翔する。
『高い!速い!イサミは凄いな!』
ブレイバーンは子供のようにはしゃぎながらホウボウとエンジンをかけ、さらに速くとジェットが点火し燃えるような赤い髪になる。
「もっと速く飛べるぞブレイバーン!」
『イサミ凄い!イサミ速い!』
キャッキャッと二人で笑いながらブレイバーンも負けていられないと、謎の対抗意識から背中からジェットを生やし、イサミと共に力強く飛ぶ。
『私もイサミと一緒に飛べるなんて!』
「楽しいなブレイバーン」
『ああ!楽しいなイサミ!』
二人だけの秘密の遊び場を手に入れた子供のように楽しく、クルクルとダンスをするように回ったり、全速力で二人で飛んでみたりして元の場所まであっというまに地球を一周する。
『……たぶんここだったような気がするんだが……何かが思い出せないんだ』
「ならもっと上から見てみようぜブレイバーン」
『上?』
「そう、宇宙からだ!」
『宇宙!そうか!私が来た場所から見れば何か思い出せるかもしれない!
凄いなイサミは!!!』
「よせよ、そんなに誉めるなって」
イサミは照れながらもブレイバーンが寒くないようにと黄金の翼で抱きしめ、地球から飛び出し、月へと着地を決める。
『……ぁ……イサミ、あれだ!私が帰りたかった場所はあそこだったんだ!
私は人類がまだ到達したことのない場所までたどり着き、帰還の最中にブラックホールに呑み込まれてしまったんだ』
地球を見たことでブレイバーンの形がギリシャ彫刻も逃げ出しそうな美しい肉体美へと変身する。
「思い出せてよかったなブレイバーン」
『……しかし、今、何年だ?』
「地球歴で言えば……22230年だな」
『イサミ、どうしよう
私、帰る場所が無いようなのだが……』
ブレイバーンが地球から飛び出して2万年も経過してしまったのだ。
そりゃあ空から見ても2万年という時間で変化した地球にブレイバーンの帰る家が無い筈だ。
「俺と一緒に住むかブレイバーン?」
『良いのかイサミ?』
「一人じゃ寂しいしだろ?
……俺も寂しかったんだ。
おまえと一緒に空を飛んで思ったんだ
このままずっと一緒に側にいて、お互いに支えあえたらなって
……だから、おまえが一緒にいてくれるなら俺も嬉しい」
『いる!イサミとずっと一緒にいさせてくれ!
大好きだイサミィッッッ!!!』
「……もう、仕方がない奴だな
また姿が俺になっちまってるぞブレイバーン?」
イサミがキスをすることで魔法が解けるようにブレイバーンの姿に戻る。
『はっ!ありがとうイサミ!また私を失っていたようだ!』
「くくくっ、おまえが自分を見失わないように俺がちゃんと側で照らしてやるよ
……それでおまえは俺が寂しくならないように俺をおまえの勇気で暖てくれよブレイバーン」
『良いのか?これはイサミの勇気なのではないか?』
ブレイバーンはイサミから勇気の光を差し出され、戸惑う。
「一人じゃ二つは重たかったんだよ
おまえが持っていてくれるならありがたいぐらいだ」
『……ありがとう、イサミ
これは私がしっかりと持っていよう』
「頼むぜブレイバーン」
『ああ、任せてくれイサミ』
そうして今度はイサミとブレイバーンの二人で地球の皆を愛と勇気の光でいつまでもいつまでも照らしましたとさ。
めでたし、めでたし。