龍兎AU龍拾いました。むかーし、昔、ある国でのある村での話。
昔その国では、猫、犬、龍、兎、鳥の種族がそれぞれの地域を収めていました。
猫族の聶氏、犬族の温氏、龍族の藍氏、兎族の江氏、鳥族の金氏、5種族は平等だったのですが犬族が力をつけ、他の種族を押さえつけようとしました。
しかし、ほかの種族はそれを容認せず戦い犬族を滅ぼしました。
兎族のとある蓮池。1人の兎が今日も悪さを働いています。
「こらー!魏無羨!」
その兎の名前は魏無羨。元気な黒兎の女の子です。
「へへん!蓮の実貰ったりー!」
どうやら池の蓮を盗んでいるのを見つかってしまったようです。ぴょんぴょんと蓮の持ち主から逃げきり、魏無羨は大きな木下に座り蓮の実をほじりながら食べ始めました。
ひょい、ぱく。ひょい、ぱく。
お行儀の悪い魏無羨は食べ投げをしています。
すると義弟の江晩吟が魏無羨の頭をポカッと殴ります。
「おい!魏無羨!またお前は悪さして!」
「なんだよ江澄、ほら、お前も食え」
2人は仲良く蓮の実を食べていると木の上からゴソゴソと音がしました。
上を見上げると2つのキラキラと光るナニカがいました。
「なんか木の上に置いてあるぞ?ちょっとつついて落としてみようぜ」
魏無羨はぴょんっと木の上に飛び乗って下にいる江晩吟の元へ落とそうとしました。
するとそのナニカはモゾっと動き木から落ちてしまいました。咄嗟に受け取った江晩吟は合図もなしに落とした魏無羨に文句を言ってやろうとしましたがそのナニカが生き物であることが分かり急いで魏無羨に叫びます。
「落とすな!これ生き物だぞ!!!」
江晩吟の腕の中でプルプルと振動している生き物は泥だらけで汚くどの種族なのかも分かりません。魏無羨は木の上からもう1つのナニカを持って降りてきました。
「ほんとだ…こいつ生きてる…」
「とりあえず蓮花塢に連れ帰るぞ」
2人は急いで家に帰りそのナニカを優しく湯桶の中で泥を落としてあげました。すると泥の下からは綺麗な青白い鱗が出てきました。
そう、龍の2人の子供だったのです。
なかなか見ることの出来ない龍族を見つけた2人ははやる気持ちを落ち着かせながら怪我の治療をしてあげます。しかし、子龍の2人はとても深い切り傷を負っておりなかなか血が止まりません。そこで魏無羨は独自の妖術を使い小さい方の子龍の傷を半分自分自身に移しました。
「おい!何してるんだ!」
「だって仕方ないだろ!こうでもしないとこの龍達死んじゃうよ!」
魏無羨は自分の利益よりも他人の為に行動する兎です。それは亡き魏無羨の母兎蔵式散人との約束でした。
「母さんが言ってたんだ。この俺の力は誰かのために使えって!だから俺はこの龍のために使う。」
江晩吟はいつもふざけてばかりの魏無羨のこのような姿が大好きでした。
ふー、と一息つき江晩吟は言いました。
「おい、こいつの傷俺に半分移せ。お前が耐えられて俺が耐えられない訳が無いからな!」
魏無羨は江晩吟の目をまっすぐ見て覚悟を悟ります。妖術で傷を江晩吟に半分やると江晩吟はその痛みに耐えられず気絶してしまいました。
「江澄!」
誰かの怒鳴り声が聞こえて江晩吟は起きます。
ズキンと痛む体を起こすと魏無羨が義母である虞紫鳶に叱られていました。
「貴方は私の娘になんてことをしてくれたの!!!!大事な体が傷ついたらどうしてくれるの!」
(母上、私は痛くありません。もう痛くないのです。)
「すみません。」
(私のために謝るな…耐えられなかった私の忍耐力が無かっただけなんだ…)
「こんなに切られている傷の痛みの半分ですって!?」
「いいえ」
江晩吟ははっきりと魏無羨が「いいえ」と答えたのを聞きました。龍の痛みの半分じゃない…?まとまらない思考。痛む体。いつもなら涙など人前で見せない江晩吟ですが遂に耐えられずに声を上げて泣いてしまいました。
その泣き声に気づいた魏無羨が凄い勢いで近づいてきて江晩吟を抱きしめます。
「ごめん!ごめん江澄!痛かったよな…よく耐えたよ!」
ひっく、ひっくとしゃくれながら江晩吟は魏無羨に聞きます。
「痛みが、半分じゃないって…なんだ?」
魏無羨はピクっと肩を揺らします。虞夫人にも睨まれながら隠しきれないと思い暴露しました。
「お前には痛みの半分の3分の1を請け負ってもらった。残りの3分の2は俺が請け負った。可愛い妹には無理して欲しくなくて…ごめん。」
「魏無羨…お前死ぬぞ…」
江晩吟は思いました。自分は魏無羨の請け負った痛みの半分も受けていないのに気絶してしまった。しかも魏無羨はもう1人の子龍の半分も請け負っている。全く、大師姉には敵わん。と思い魏無羨を抱き締め返し言います。
「助かった。ありがとう。」
遠くから2人を見続けている母は魏無羨を睨み付けると自室に帰ってしまいました。
「ちょっと母上の部屋に行ってくる。お前はここで寝てろ。」
江晩吟は母親の元へかけて行きました。
「母上。」
「入りなさい。」
江晩吟は襖を揃っと開けて部屋に入り母兎の膝元へ向かいました。
「阿澄…」
「母上、あいつを叱らないでください。蓮花塢に連れて帰ろうと言ったのも、痛みを半分移せと言ったのも私なのです。それに耐えられなかった私が弱かった。」
「阿澄、分かったわ。魏無羨に罰は与えない。あの子に言伝を頼むわ。」
「かしこまりました。」
ゆっくりと虞夫人の部屋から帰ってきた江晩吟を見て魏無羨は安堵しながら出迎えます。
「魏無羨お前に言伝だ。」
「ば、罰の内容か?」
「いいや?母上が1ヶ月の間家僕の仕事はしなくていい。俺と一緒に子龍の世話に勤しめ。とな」
2人は顔を見合わせてニコニコしながら嬉しそうに鼻をヒクヒクさせました。
魏無羨が1ヶ月の休暇を貰ってから1週間後に大きな子龍は目を覚ましました。
体を起こすと足元には小さな紫色の子兎が鼻ちょうちんを作りながら気持ちよさそうに眠っています。
見知らぬ天井、見知らぬ布団、見知らぬ子兎。
敵に追われる身である自身にはとても悪い状況ではあるが体が丁寧に治療されている事からこの子が匿ってくれたに違いないと思いやっと安心することが出来た。
「小さな兎さん。もし、もしもし。」
状況確認の為に子兎を起こそうと試みるが子兎は熟睡しているのか起きてくれない。
足元にいるのもバツが悪いので手の中に寝ている子兎を招き入れ、寝顔を見ていることにした。
半刻後ようやく子兎は目を覚ました。
「おはようございます。兎さん。」
「ん〜、おはよう……!?」
子兎は驚きのあまり後ろに飛び退いた。
「び、びっくりした。目が覚めたのか。」
「はい。助けていただいてありがとうございます。」
「いや、死にかけだったから見捨てられなかっただけだ。」
「弟共々感謝致します。」
ぺこりと拱手され、江晩吟もぺこりと拱手を返します。
「弟と言ったな、もう1人の子龍がそうか?」
江晩吟は龍に聞きました。
龍はこくりと頷きます。
「申し遅れました。私、姑蘇藍氏次期宗主の藍曦臣と申します。弟は藍忘機と申します。」
「次期宗主!?こ、これは失礼した!!私は雲夢江氏宗主江楓眠が長女江晩吟と申します。」
「ここは蓮花塢なのですね。江晩吟、私達を見つけてくれてありがとう。」
藍曦臣は江晩吟の手を握り感謝をしました。
藍曦臣が目覚めてから2日後藍忘機が目を覚ましました。
藍忘機は体を起こそうとすると頭の上から
「まだ寝ていろ。体を動かすな。」
と今まで聞いたことの無い心地よい声が聞こえてきました。刺客か!?と思い暴れようとしましたが体は思うように動かずまた布団に体を預ける形になってしまいます。
「俺は敵じゃない。大丈夫だ。お前の兄も生きている。」
「兄上…」
「今呼んできてやるからな!ちょっと待ってろ」
魏無羨は急いで江晩吟と藍曦臣を呼んできました。
「忘機、よかった…」
ポタリと藍曦臣の涙が藍忘機の頬に落ちました。兄から今の状況を聞き、支えられながらも体を起こし、魏無羨と江晩吟に向き直り感謝の言葉を送りました。
双龍目を覚まし5日が経ちました。
藍曦臣、藍忘機どちらも凄まじい回復力でもうすっかり傷が塞がりました。
元気になった2人を連れて江晩吟は母親に謁見に向かいます。藍曦臣は2度目の謁見ですが1度目はまだ傷が塞がっておらず虞紫鳶に、
「藍公子、治ってからで構いません。今は治療に専念なさい。」
と言われてしまったため言葉を交わすことが出来なかったのです。
「母上はとても厳しいお方だが根はお優しい方なんだ。言い方がきつくても許してくれ…」
「江澄、存じております。大丈夫です。」
藍曦臣はふわりと笑います。
目が覚めてからほぼ一緒に過ごしているため藍曦臣と江晩吟はとっても仲良しになりました。
互いに、藍渙、江澄と呼ぶようになりました。
「江晩吟。魏嬰はどうしたのだ。何故居ない。」
ふと、藍忘機が疑問を投げかけました。
江晩吟は少し眉間に皺を寄せながらも答えます。
「魏無羨は母上を怖がっているから滅多な事じゃ部屋に行かない。」
魏無羨は1人で部屋の片付けをしていました。
子龍が寝ていた布団を干し江晩吟の出ていない洗濯物を洗い自分の身の回りの事を済ませていました。
すると料理場からとてもいい匂いがします。
「いい匂〜い!何作ってるんだ?」
魏無羨がひょっこりと覗くとそこには大好きな義兄、江厭離がいました。
「師兄〜!!!何作ってるの?ねぇねぇ!」
自分を江澄と同じように愛してくれる師兄が大好きな魏無羨は姿を見るだけでぴょんぴょんと跳ねてしまいます。
「阿羨、落ち着いて。今は4人のために蓮根と骨付き肉のスープを作っている途中だよ。」
「え!ほんと!師兄のスープ大好き!」
魏無羨は嬉しくなってさらにぴょんぴょん跳ねます。
江厭離は1人で楽しそうに跳ねている子兎を尻目にお鍋をグツグツさせています。
「さぁ、完成したよ。阿羨、今は1人なの?阿澄はどこ?」
江厭離はいつも2人で居るのにどうしたの?と優しく問いかけます。
「あ、江澄は今虞夫人と江おじさんに謁見してるはず!藍湛と曦臣が回復したからその報告に行ったよ!」
「そうなのね。1人で寂しいのに泣かないでお仕事してた阿羨には特別に味見をさせてあげよう。」
江厭離は少し小皿に味見用にスープを盛ってくれました。
魏無羨は小皿を受け取りコクコクとスープを飲みます。
「ん〜!やっぱり師兄の美味し〜!!!」
「ふふ、ありがとう阿羨。阿澄達が帰ってくるまで僕が不在の間の話をいっぱい聞かせてくれる?」
「もちろん!!!」
魏無羨は江厭離に龍を拾ってからの事を包み隠さず全て話しました。魏無羨が話すにつれて興奮し舌が縺れようとも子兎の話を全て聞きました。
「阿羨、もう体は痛くないの?」
「大丈夫だよ!だって私江澄の師姉だもん!」
魏無羨はむんっ!と大きく胸をはります。
そんな魏無羨を江厭離はそっと優しく抱きしめて膝に乗せます。江厭離の胸に顔を埋めていると魏無羨の大きな目から少しずつ涙が零れてきます。
「阿羨はとても頑張りやさんだね。よく頑張ったね。阿澄の分までありがとう。私は阿羨のような妹を持てて最高の師兄だよ。」
魏無羨は「よく頑張った」という自分の功績を認めてくれるその一言を聞いた瞬間に声をあげて泣きました。
魏無羨を褒める言葉をかける人はここにはほとんど居ません。家事はやって当たり前、鍛錬は1番頑張って当たり前、そんな魏無羨が欲しかった言葉を江厭離は小声で魏無羨にだけ聞こえる声で言い続けながら背中を摩りました。
スンスンと泣いていた魏無羨がだんだんと暖かくなり眠ってしまったことに気づくと魏無羨を姫抱きにしながら部屋に連れて行って布団に寝かせます。
後から部屋の戸が開き江晩吟が入ってきます。
「阿澄、おかえりなさい」
「兄上!あれ、魏無羨は寝てるのか?」
「少し疲れてしまったみたいだからお昼寝させてあげて」
江厭離は江晩吟の後ろにいる2人の子龍に目線を合わせながら拱手し、挨拶をします。
慌てて双龍も拱手しようとしますがやんわりとそれを止めて2人に笑いかけます。
「初めまして、私は江厭離。その2人のお兄ちゃんだ。」
「厭離殿、ご挨拶が遅くなり申し訳ありません。私、姑蘇藍氏藍曦臣と申します。そしてこちらが弟の忘機です。」
「藍忘機と申します。しばらくの間お世話になります。」
すると江厭離は江晩吟に調理場から人数分のスープを持ってきてと頼み事をします。江晩吟は兄のスープがあると喜んでかけ出しました。
「お2人は私の妹達をどのように思っているのかな?是非、聞かせて欲しい。」
江厭離は今までの笑顔を崩さず藍曦臣と藍忘機に聞きました。
双龍は一瞬驚いたような表情を見せますが自分達の気持ちがもうバレているような気がして江厭離に白状しました。
「私は江澄の事がとても好きなのです。友人としてではなく想い人として好きなのです。」
藍曦臣は人差し指をちょんちょんとしながら恥ずかしそうに言います。
しかし、弟龍の藍忘機は胸を張りこう言います。
「私は魏嬰を愛している。今すぐにでも結納し、雲深不知処に連れ帰りたい。」
藍曦臣は今まで自分の意志を強く主張した藍忘機を見たことがありませんでした。兄ながらに弟が魏無羨に恋心を抱いている事は察していましたがここまで強い恋心とは知りませんでした。
江厭離は2人の目を真っ直ぐ見て言います。
「藍公子達、君達の思いは私がしっかりと受け止めた。私は2人を認めようと思う。だが、もし私の可愛い妹を泣かせるようなことがあれば生きて帰れないと思いなさい。」
3人は小指を絡ませて指切りをした。
2人の子兎には知られない男3人だけの誓いだ。
江晩吟が大きなお盆にスープの膳をいくつか乗せてよちよちと歩いてきた。
魏無羨を揺すり起こしてみんなでスープを飲みました。
「藍公子達はいつまでここにいられるんだい?」
不意に江厭離が謁見に行っていた3人に聞きます。
「母上が言うにあと5日程かと。」
「父上は?」
「何故か怒っていて今すぐにでも帰れと仰っていました。父上らしくないですよね、どうしたんだろう…」
江厭離は察しました。
藍公子達の思い、父上と母上にもバレている…と。
次の日に江楓眠は藍曦臣、藍忘機の2人を練武場に連れてきて剣の稽古をしてあげました。双龍対江楓眠の2対1の試合をしていると江楓眠はこう言いました。
「私より強い男でなければうちの可愛い娘は嫁にやらん。」
2人は呼吸を合わせて力強く踏み込みます。藍忘機は右から剣を払い、藍曦臣は避けるであろう後ろへ回り込み江楓眠を倒そうと躍起になりました。しかし、江楓眠は藍忘機の剣を指で摘み動きを封じ、背後にいる藍曦臣の足を掴み宙ずりにしてしまいます。
「はは、これで姑蘇藍氏の双璧か。これじゃあうちの娘より弱いじゃないか。」
一言言うと2人を練武場の壁に叩き込みました。
「ぐふっ…!!」
息をはくはくとさせながら藍忘機は江楓眠を見つめます。
「残りの5日で私から1本取る事が出来たら許してやろう。」
江楓眠はにっこりと笑いました。
藍曦臣、藍忘機は己の抹額を結び直し1本を確実に取るために勢いよくかけ出しました。
少し離れている場所から3人の様子を見ていた虞紫鳶は側近に筆と紙を持ってこさせ、雲深不知処へと手紙送ります。
______________________________________
藍啓仁殿
貴殿の甥2人は蓮花塢にて匿いしております。
犬に噛まれぬようにお越しくださいませ。
虞紫鳶
______________________________________