俺、だけ。 俺の前にだけ現れる、可愛い可愛い幼いキラ。
その日の出撃は、コンパスを誘い出す為にわざと一般人を狙うという非道過ぎる相手との戦闘だった。
当然の如く隊長は傷付いた顔をしていた。でも、俺たち部下の前では何の弱音も吐かない。だから余計に心配で、俺はミーティングの後に早足で隊長の部屋へと向かう。
「隊長……っ」
部屋は暗く、隊長の姿が見つからない。だけど息を潜めれば、ひっくひっくとしゃくり上げる声が聞こえてくる。俺は電灯を点けて、彼がよくいる、部屋の隅へと歩みを進める。
「……キラ?」
膝を抱えて小さく丸まっているキラに声を掛ければ、ぼろぼろと大粒の涙を流しながら、キラは顔を上げる。
「キラ」
もう一度名を呼ぶと、キラはわぁわぁと大声を上げて更に泣き出して、俺に両手を伸ばしてくる。俺はその腕を掴んで身体を引き寄せると、腰と尻の下に手を回して、細い体を抱き上げた。
見た目は大の大人だから、傍から見たら不思議な光景かもしれない。でも俺は、辛い気持ちを我慢していた幼子が、漸く心のそこから泣き叫べているようにしか見えなかったから。
「……キラのせいじゃないよ。大丈夫」
「ひっ、うっ……わあぁぁん!うっ……ひっ……うぇッ……。ふ、ぅ、……わぁぁん!」
俺の首に手を回して、キラは延々と泣き続ける。きっと“キラ”は、どうして自分が泣いているのかも分かっていないのだと思う。
キラを抱き上げたままベッドに腰を掛けて、キラが落ち着くまでずっと、背中を擦った。俺の膝の上で涙を流すキラは、この人の隠された本音。
俺しか知らない、俺だけの愛しい人。
泣き疲れて意識を手放したキラをベッドに寝かせて、目尻に浮いたままの涙を指先で拭う。顔に掛かっていた髪を掬って、それから頭を撫でた。
「……隊長……」
どちらもこの人だ。
分かってる。
隊長も、“キラ”も、俺の大切で、好きな人。
でも、俺がキラに対して抱いているのは、庇護欲と、それから。
「……俺だけの、キラ……」
醜い、独占欲。
はぁ。と、無意識に溜め息が出た。
泣き喚くキラにどうして良いのか分からずに、部屋の中でウロウロしていたトリィとハロが、心配そうにキラの顔の近くにやって来る。
「キラは大丈夫だよ。寝てるだけ」
そう言ってトリィを撫でると、トリィはそれを理解したと言うように、翼を広げてからキラの傍らで目を閉じる。
キラが理解しているのは、トリィ、ハロ、そして、俺。
それだけ。
俺は自惚れていいのだろうか。
他の人には隠している、貴方の心に触れられていると。