逢瀬の時間 もうこんな時間なのか、とスマホから顔をあげれば、まだ空は夜の準備をはじめていない淡い色で。夕方とも呼べない色なのに、時刻は夜をさしていた。
夏は時計を外す様にしている。日焼け跡が怖いからだ。長袖を着ている時は付ける時もあるけれど、時計と肌の間にかいた汗は気持ちが悪い。だから、時刻を確認するのが遅くなった。十八時にしては外が明るすぎる。夏至を過ぎてからというもの、めっきり日が伸びた。
「もしもしー、雨彦さん?」
手の中にスマホがあったから。理由はそれだけに過ぎない。慣れた手つきですいすいと指を滑らせ、四回コール音を聞けば、聞きたかった声の主の笑いが耳元に零れてきた。
「大方、時計を見るついでだろう?」
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