「あんなの顔だけだろ」
「ハハ、確かに。あの性格じゃあな」
「案外刈野もヤりたいだけで付き合ったフリしてんのかもな」
「あいつなら、ありえる」
「梓、見た目だけはいいからな。やるにはもってこいだ」
刈野と付き合ってから、そんな噂をされてるのは知っていた。
俺のことを気に食わないと思う連中が腐るほどいるのは自業自得だし、こんな事に耳を傾けなきゃいいだけだとわかってる。
でも…。
「お前さ…」
「ん?」
屋上で刈野と飯を食う。ここなら誰にも邪魔されないから。
「やっぱいいや…」
「なんだよ」
前に俺のどこが好きなのか聞いた時、こいつは迷いなく顔と答えたことを思い出した。
テンションが下がる。
「話すこと忘れた」
「ふーん。元気ねえな」
「そうか」
「うん」
特に話す事がなく、いつもこんな空気なのに俺が意識し過ぎてるせいか気まずく感じる。
「梓、やけに大人しいじゃん」
肩に腕が回って来て引き寄せられた。
「な、んだよ…っ」
至近距離で話されて、顔に熱がこもる。
「フッ。可愛い」
「可愛いってなんだよ」
「間違えた、綺麗だな」
「綺麗…」
可愛いとか綺麗とか、そんな言葉でしか俺を褒めない刈野に苛々してくる。
「お前は顔だけは良いからな」
いつもの様な揶揄い文句にカッとなる。
「離せっ」
手を振り払って睨みつけると、驚いた顔をされた。
「なに怒ってんだ」
カオダケ。ヤリタイダケ。
結局お前…。
「怒ってねえ」
「怒ってんじゃん、気に触る事したか」
刈野からしたら、いつもと変わらない会話でも俺からしたら違う。
こんなのただの八つ当たりだとわかってる。
「ごめん、何でもねえ…」
こういう性格のせいで、もしかしたら刈野は人に言われるのかもしれない。
「あっそ」
何も問い詰められない事に少し寂しさを感じた。
「帰る」
「じゃあ俺も」
「真似すんな」
「あ?俺の勝手だろ」
「一人で帰る」
「お前さ、何ずっと苛々してんだよ」
我慢ならなくなった刈野に手を強く掴まれた。
「苛々なんかしてねえっ」
「わかったよ、一人で帰りたいならそうしろ」
そう言われて、刈野は諦めたような顔をした。
一人になったらなったで寂しくて、いつも適度な距離感でしか接して来ないあいつに、やっぱり体だけなのかと聞きたくなる。
「何で来たの」
「何でって迎えに来た、ラインもシカトだし」
次の日の朝、家の前で待ってる刈野に驚いた。
「お前ってさ…」
少し前を歩く背中に勇気を出して話し掛ける。
「ん?」
「あの…」
「なんだ」
「俺といて、クラスの連中に何か言われない?」
「何かって?」
「いや、わかんねえけど」
「何か言われたのか」
鋭い目で見られて、少し慌てた。
「俺、嫌われてるから…」
「それ俺に関係あるか?」
「へ?」
「お前が嫌われてるとして、何で俺がお前と一緒にいる事を誰かにとやかく言われなきゃいけねえの」
「…」
その言葉に何も言えなくなって、何でこいつの事を疑ったのか自分を恥じる。
「梓、俺以外の言葉なんか気にすんな」
「…俺は、誰の言葉も気にしてない」
精一杯の強がりに声が震えた。
「泣いてんのか、やっぱお前可愛いな」
「泣いてねえ!」
「はいはい」