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    秘みつ。

    @himi210

    @himi210 小説 / 毎日更新12:00〜21:00 / 凪茨右茨ジひジ▼感想質問お気軽に📩 http://bit.ly/3zs7fJw##ポイピクonly はpixiv未掲載ポイピク掲載のみの作品▼R18=18歳以下閲覧禁止▼##全年齢 for all ages▼連載一覧http://hi.mi210.com/ser▼連載後はpixivにまとめ掲載http://pixiv.me/mi2maru▼注意http://hi.mi210.com/guide▼フォロ限についてhttps://poipiku.com/19457/8988325.html

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    凪茨▼『結ぶ』初めてのキス
    凪茨ワンドロ~~

    ##凪茨
    ##全年齢

    むすぶむすぶ

     契約を結んだ時には思いもしなかった。
     ただのビジネスパートナーではなくなってしまうなんて。
    「――できました、閣下、ふう、綺麗に編み込めました」
     髪ゴムを結え終わり、そっと銀色をひと撫でする。
    「そう。おつかれさま。ありがとう。鏡で見てみるね」
     閣下は本を閉じて手鏡を手に取る。俺は鏡に映り込むように後ろからバックミラーを開いた。合わせ鏡になって、渾身の編み込みした綺麗な銀髪がきっと写されている。
    「ふふ、たくさん編んだね。すっきりした?」
    「ええ! 閣下の髪を触っていますと浄化される思いがします! 感謝感謝です!」
    「それならよかった。じゃあ、茨、今度は私の手慰みに付き合ってくれる?」
    「アイ・アイ! なんなりと!」
    「おいで」
     隣の仮眠室へ手を引かれて連れていかれる。この間は添い寝してほしいと云われたから一緒にベッドで眠ったりした。ドキドキした。そんなのまるで恋人のすることじゃん、なんて思う。でも閣下は多分興味を持ったからしているのであって、他意はないんだと思う。多分誰でもいい、そばにいるのが俺だから、俺に頼んだだけなんだ。はっきり云って、このままじゃ本当に閣下を好きになってしまうと思う。それはいけない、だって俺はこの人をプロデュースするのであって、適切な距離が必要なんだ。ビジネスパートナー。いつかは切れる契約の繋がり。情を持ってはいけない。
     そんなことを思いながら、握られた手の温度を感じていた。今日は何をご所望なのだろうか。
    「……私も茨の髪を触りたいな」
    「諒解しました! どうぞ思う存分!」
     閣下はベッドの縁に座って、おいでおいでと俺を呼ぶ。ここに座れということだ。なんだかロマンス映画のワンシーンみたい。応えてしまったから拒否するわけにもいかず、おずおずと閣下の前に座った。
     ふわりと閣下の指先が俺の髪をもてあそぶ。こそばゆい。ゆっくりゆっくり、なにかを確かめるように、閣下の手櫛は続いた。
    「……綺麗な髪。やわらかくて、さらさらしてる。自分でメンテナンスしてるんだよね」
    「はあ。櫛で梳かすくらいですが」
    「……誰かに梳かされたこと、ないの?」
    「? ありませんね。身だしなみは重要ですし、これくらいは自分でできますよ?」
    「ううん、そうじゃなくて、誰かのお膝に座って、梳かされたこと、ないのかなって」
    「ああ……」
     閣下は多分、愛情のことを云っている。きっと閣下は毛繕いを誰かにしてもらってきたのだろう。今は俺がしているみたいに。愛情を込めて。
    「無いのなら、私がしてあげるね」
     そう云って閣下は持ってきた櫛で俺の髪をき始めた。ゆっくり、やさしく、ていねいに櫛を動かす。まるで愛されているみたいだった。むず痒かった。
     櫛通りが良くなって、後ろからぎゅうと抱きしめられる。
    「わ、閣下」
    「……茨のいい匂い」
     うなじを形の良い鼻先でなぞられる。ゾクゾクする。これは何なのかわからない、閣下の所望することが何もわからないのはいつものことだけれど。
    「ん、あ……っ」
     しらなかった、背筋を触られると、こんなに気持ちいいのか。へんなこえが出てしまう。まってほしい、なんだこれは、いまは何の時間なんだ? 閣下は髪を触られて、触りたくて、触って梳かして、埋めてみたくて……。
    「……あのね、茨。茨が私の髪をいじってストレス発散してるみたいに、私は茨を触ると気が晴れるんだ。こうして……ぎゅって抱きしめたくなる」
    「そ、うでありますか……」
     みみもとで囁かれて、今度は耳が熱くなった。だって、乱凪砂だ。最終兵器だ。
    「抱きしめて、それ以上をしたくなる。ね、茨、いいかな。もっと深く結びつきたい。茨が欲しい、ひとつになりたい……」
    「そ、れは……わっ」
     ベッドに倒されて、混乱していると、上から影が落ちてくる。マウントを取られている。見上げれば――美しい顔。
    「髪を触りたいっていうのは、性的欲求があるからでしょう? 茨の髪を梳かせるのは、きっと私だけだよね」
    「えっと、あの、閣下……なにを……」
     編んだ銀髪が閣下の首から垂れ下がる。そっと、ゆびさきが眼鏡のツルをとって、視界を奪われた。
    「茨、好き」
    「は……?」
     閣下は困った顔をした。多分俺もそういう顔をしている。
    「愛情を……、茨を好きっていう愛情を伝えたいのだけれど。くちづけを、して、いい?」
    「そ、れは……」
    「だめ?」
     閣下は俺の薔薇色の髪を掬ってそれにくちづけていった。これがグラビアなら一億万部雑誌は売れている。閣下のこういうお願いに弱い俺はなす術がない。
    「……閣下が、したい、の、なら……」
    「したい。茨と、私、したいな」
     頰をつつまれて、触れた肌が熱い。閣下の太陽の瞳から目がそらせない。ぼやけた視界だからか、ひかりが輝いて見えて、まるで御伽噺のワンシーンみたいだった。
     なにかが始まってしまう。どうしようもないくらい、閣下は美しくて、非現実的だった。夢かもしれない、そう思うのに、たしかに触れ合う熱は現実だった。
    「……いばら」
     合図のように名前を呼ばれて、俺はこわくて目を閉じる。結ばれたくちびるにふれたのはおとこの弾力で、ちゅ、と本当にリップ音が鳴った。ふれて、離れて、また触れて、敏感なくちびるで閣下を感じる。
     胸の奥がとろけていく。
     ああ、これが愛情なのかと思う。
    「……キス、しちゃったね」
    「……は、い。……えっと、ご満足いただけましたか……?」
    「これで、私たち、恋人同士」
    「えっ!?」
     閣下は耳に後毛をかけながら柔らかく笑った。
    「……いや?」
    「そ、そんな、えっと、おれ、自分と、閣下はその、ビジネスパートナーで……」
    「キスしたら恋人になるんじゃないのかな。茨はお仕事だからキスを許してくれたの? お仕事なら誰とでもキスするの?」
    「い、いえ、そういうわけでは……」
    「じゃあ、これは特別なことなんだよね。私は茨が好き。茨は? 私を好き?」
     きらきらと太陽の瞳が揺れる。何て答えればいいのかわからない。すき。好き。そんなふうに思っていいのだろうか。許されるのかな、俺なんかが。愛する資格のない俺なんかが。
    「茨、泣かないで」
    「え、……っ」
     光が攪拌するのは涙の所為だったらしい。閣下の手が俺の涙を掬って、そっと掃ってくれる。
    「……ごめんね、嫌だった?」
    「あ、……ちが、くて……っ」
     目の奥が熱かった。泣くのなんていつ振りだろう。恥ずかしい、情けない、こんなの無能のすること、どう止めるのかわからない。鼻を啜って、いきが止まって、呼吸がくるしい。感情がぐちゃぐちゃになる。溢れる涙を拭いてくれる指先が優しかった。
    「すき、に、……好き、で、……いい、んで、すか……、おれ、が……おれなんか、が……」
    「うん。いいよ。そうだったら嬉しい。……大丈夫、泣いていいんだよ、茨」
     閣下の胸に抱かれて、背中を撫でられて、何もかも許される。
     上手く呼吸ができなくて、こえもとまらなくて、泣くのが下手だったんだなあ、とはじめて自覚した。自分は泣くほど閣下が好きだったんだなあ、とも。
    「私たち、ようやく結ばれたんだね、これで。ずっとずっと好きだった、茨。好きだよ、愛してる」
     そっと指先を手繰られる。
     結ばれた指先が、酷く熱かった。

    (210619)
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