ひかりさす未来へ ニキズキッチンが開かれる共用キッチンを覗いたら、茨が弓弦くんと並んで卵を溶いていた。何かいい合っていて、ニキくんと颯馬くんがおろおろしているが、私は知っていた――険悪な空気を作っているが、茨は今、凄く喜んでいる。
弓弦くんといるから。
「……やっほう。こんにちわ」
「閣下! どうされましたか」
「ちょっと見学に来たよ。楽しそうだね」
「いえいえ! 隣の泣きぼくろがいなければもっと楽しいんですがね!」
「メガネ置き場が何か云っていますね。綺麗に畳んでしまって差し上げましょうか」
「怖っ、柄物は禁止ですよ弓弦!」
「なはは、包丁は置いて次の工程にいくっすよ〜〜」
ニキくんが二人の間に入ってバットとボウルを取り出した。そうして調味料をとりだしていく。
「んい、砂糖がないっすねぇ。副所長、食糧庫から取ってきてほしいっす」
「了解であります」
キッチンの奥手にある食糧庫に茨が向かったからその後をついていく。扉からさすひかり。暗いそこには所狭しと食材や調味料のストックが積んであった。
「……へえ、こうなってたんだ」
「閣下はこういうところお好きですか? 自分、このように積まれていると武器庫などを思い出して――」
茨がまた昔を思い出している。それに嫉妬する自分を、私は自覚していた。
「……じゃあ私と茨のおへやもこういうところ作ろうか。非常食とか携帯食料とかを詰め込んだところ。そこに避難して過ごそうね」
「シェルターでありますか、それもいいですね」
「二人きりになって、私は茨のことだけを考えるから、茨は私だけのことを考えて」
「はあ……」
砂糖を持った茨を抱き寄せる。びくりと震えるけれど、以前ほど逃げなくなった。少しずつ、私に溶けていく茨を抱きしめて、このまま閉じ込めてしまいたかった。
向こうから気配がした。弓弦くん。
私はわざと、茨の顎を上げて、そのままキスをした。
「んっ、か、……ふぁ……っ」
茨からは死角で弓弦くんを見えていない。
見せつけるように、深く、くちづけをする。
弓弦くんの目を見る。何を考えているかわからない目。揺るがないたしかな目だ。
弓弦くんがぱちり、と食糧庫の電気をつけた。
ばっ、と、茨が振り返る。
「おや、砂糖をどこまでとりに行ったのかと思いました。乱さまとお二人でなにを?」
「な、なんでも……」
茨の耳が赤いのがわかった。こんな照れ方をする茨はかわいい。
「茨の目のゴミを取ってあげてたんだよ。二人の将来について決めていたんだ。茨、砂糖を持って行ってあげて。また話そうね」
「あ……、アイ・アイ!」
そういって茨は急いで食糧庫から出て行った。
弓弦くんは静かに佇んで茨を見やる。
「きみも茨が好きだったんだね」
そういうと、こちらを振り向いた。
「でももう、茨の全部は私のものだよ」
くちびるをなぞって、私はわらう。
茨の未来は、私の隣と決まっていた。
弓弦くんは瞬いて、その目を伏せた。
「どうかあの子を幸せにしてあげてくださいまし。偽りでも張りぼてでも、きっとあの子にとってはそれがほんとうになるでしょうから」
「わかったようにいうね。まっとうな幸せをわからなくしたのはきみなのに」
私は歩み寄って過去を見つめる。過去は私を見返した。
「邪魔だけはしないでね。茨の幸せに、きみはもういないんだ」
「承知しております」
キッチンで茨が私を呼んでいた。私はひかりさす未来へ、歩んでいった。
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せめていまだけはひとりじめみたいな設定で弓弦にバチバチする閣下
弓弦に嫉妬する閣下大好きです〜!
(220321)