2023.03.20
「ちょ、と、おひいさ」
「シッ! いい子で、静かにして」
意識した途端おねだり下手になるこの子に懸命に呼ばれて、熱視線を交わしてすぐ、未使用の一室に忍び込んだ。期待でいっぱいの、うるうるした蜂蜜色と見つめ合って、それから。唇を重ねようかの間際、壁の向こうからぼくを呼ぶ声が聞こえた。「日和くん?」と。飛び込むところを見られていたんだろう。
話したくないわけじゃない。ただ、まだ二人でいたいだけ。息をひそめている間に諦めてくれないかなと、ジュンくんを胸に隠して数分。壁越しの声はまだ近い。
「ちょっト、モジャ眼鏡。早く入れヨ」
「急かさないでくださいよ〜。日和くんたちが通ったなんて、見間違いだったかもしれませんし」
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