花火と真スミ人いきれから逃げるように腰を下ろした河原。
こっちに行こう、と引かれた手はまだ繋がれたままで、互いの体温でじっとりと滲む手汗は不思議と嫌じゃなかった。
それをそのままにふたり空を見上げる。
ひゅるひゅる、どん、ぱらぱらぱら。
「すごいなぁ、こんなに近くで見たの久しぶりだ…」
夜空を映した琥珀がキラキラと輝いてそう呟いた。
でもそのセリフはただの照れ隠しで。
隣に座る艶やかな黒の前髪を湛えた彼が視界の横にチラついては、緩む頬を隠すのに必死であった。
その彼もまた空を見上げて呟く。
「そうッスねぇ、自分も何年ぶりッスかねぇ」
これも、照れ隠しだろうか。
少し静かになった夜空のおかげでその表情はうかがえない。
「そっか…」
「…」
「…」
どこかギクシャクとした空気の中、2人が口をつぐんだまま時間は過ぎていく。
真珠は、右の手とは対照的に冷え始めた左手を握りしめる。
言わなきゃ。
ずっと伝えたかった言葉がどうしても出てこない。
伝えたいんだ。カスミに…
「そろそろ帰るッスか?真珠も疲れた…」
「…っカスミ!」
「へ?」
「その……ぅ…」
「…真、珠……?」
爪の跡がついてしまった左手を、恐る恐るカスミの肩へと伸ばした。
渇く口で息を吸って、前を見つめて、そして、
「…好き、です」
繋いだ右手がぴくんと動いたきり目の前の彼は動かない。
だめだった、だろうか。
沈黙が痛い。
その顔さえ見られればいいのに、黒い前髪がそれを邪魔して夜風に揺れた。
真珠は肩に置いた左手をそろりと上げてその黒を梳く。
せめて顔だけ。
「…っや、だめ………」
まるで宝石のような灰緑がそこにあった。
それをすぐにふっさりとした黒いまつ毛が覆って、ぽろり、と大きな雫を落とす。
赤く染まった肌をとめどなく滑る雫を真珠は慌てて指で掬う。
「ご、ごめん…!困るよね、男に言われても!ごめん…ほんとに………」
「ちが…う……っ…」
「…え……?」
「ちがう…自分も……っ…真珠のこと……好きッス…から…」
片手で顔を覆ったカスミは泣きじゃくりながらそう言葉をこぼした。
「…も、恥ずかしいから…前髪下ろして欲しいッス…………」
さらに赤くなる頬が愛しくて、真珠はつい悪戯心を芽生えさせてしまう。
カスミをうっとりと見つめて言った。
「暗いから誰にもわかんないよ」
「いいから下ろして………」
「……こっち、見て」
琥珀と灰緑がかち合う。
「…ん……」
しっとりと触れ合う熱の向こう、轟音と共に開く大輪の花。
クライマックスのその花火に皆足を止めて空を見上げる。
ただふたりを除いて。