抗う者達⑥「あ、そうだ、忘れる前に」
狭い個人用テント内に詰めて腰を下ろした杉山は思い出して言った。
「八木山、すまん」
そして頭を下げる。八木山は首をかしげた。
「何がだ?」
「咄嗟のこととはいえ、お前のことを『ヤギ』と呼んでしまった」
「? それがどうかしたか? 以前からたびたびそう呼んでいただろう」
「いや、まぁ、そうなんだが……しかしあの呼び方は」
七浦が使っていた。杉山はそれを気にして遠慮していたのだ。
苦笑いを浮かべる八木山。
「別に構わない。好きに呼んでくれ」
「だが」
「いいんだ。他でもない俺とお前の仲だろう。今さらだ」
それに、と続ける。
「お陰で自失から立ち直れた。むしろ感謝している。ありがとう」
今度は八木山が頭を下げる。杉山は後ろ頭をかいた。
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