唇に何か触れた……寝ぼけたまま反射的に顔を背けると、追うように柔らかいものがまた触れた。
「諏訪」
少し掠れた声と湿り気のある息に、急速に意識が浮上する。
「……風間? お前、何やってんの?」
瞼を引き上げれば、ほとんどゼロ距離に風間の瞳があった。確か部屋で二人で飲んで、いい感じに酔っ払って、それから……。
忙しく記憶をたどる間に、また名を呼ばれる。
「諏訪」
「なんだよ」
「諏訪」
風間は何か壊れたように諏訪の名を繰り返した。赤く昏い瞳が瞬きもしないで自分を見ている。
「諏訪」
何度目か名を呼んでから風間は目を瞑った。唇は離れない。エアコンをきかせているはずなのに身体が熱い。
諏訪は小さく舌打ちをして風間の頭に手を伸ばした。何ヶ月かごとに風間は諏訪を欲しがるのだ。欲しがるくせに欲を口にしないでただ諏訪の名を呼ぶ。
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