あいしてるのひ ふと目覚めると隣にいるはずの日和がいなかった。ベットに温もりも残っていない。随分前に起きたのだろうか。
昨晩、「日付が変わったね、楓誕生日おめでとう」「今日は楓の好きに抱いていいよ」なんて言うからいつもより激しく日和を貪った。荒々しく抱いた翌日は日和はぐったりと眠りに落ちているはずなのに、今日はどうしたのかと思案していると、鼻を甘い匂いが掠めた。
キッチンへ向かうとエプロン姿で鼻歌混じりにスポンジケーキをケーキクーラーへと乗せている日和がいた。
「楓、おはよう」
顔を出した俺に気づいた日和が笑顔を向ける。
「はよ。今日は起きるの早いな」
「楓の誕生日だからね」
そう言ってたまねぎやじゃがいも、にんじんなんかを取り出して新たな料理の準備を始める。
「日和クン張り切ってるじゃん」
「そりゃ恋人の誕生日なんだから張り切るでしょ」
あまりにも小っ恥ずかしいことをサラッと言うものだから面食らってしまった。
「日和、熱でもあるのか」
「キミ、失礼だな」
日和は抗議の声を上げながらも手は野菜を刻む手を止めない。照れ隠しとはいえ失礼なことを言ってしまったのは事実なので素直に「悪ぃ」と謝ると、くすくすと笑い声とともに「いいよ」と返してくれた。
「これは何作ってんの?」
「ブラウンシチューだよ」
「すげぇ手間かかるやつじゃんか。俺って愛されてるな」
「そりゃね、楓のこと愛してるからね」
またもサラッととんでもないことを言い出すものだから今度は目を白黒させてしまった。
「日和ぃ、お前今日どうしたんだ」
「だから楓の誕生日だからね、素直に気持ちを伝えようと思って」
そう言って手を止めてこちらを見つめながら微笑んだ日和は、まさしく日向のような笑顔だった。
「ちょっ、楓!包丁持ってるから危ない!」
焦る日和を尻目に背後から強く抱きしめる。
「日和、俺も愛してるよ」
「うん、知ってる」
日和は顔を真っ赤にしながら横を向いて答える。
「日和、こっち向いて」
「なんかこのやりとり恥ずかしくなってきて」
「日和がはじめたんだろーが」
「そうだけど…」
そんなことを静かに話しながらそっと包丁をまな板の上に置かせて、日和を正面から抱きしめる。
「日和、愛してる」
「楓、僕も愛してるよ」
そう言ってお互いそっと目を瞑り触れるだけのキスをする。本当は貪り尽くしてやりたいが、せっかくの準備の邪魔をするわけにはいかない。
「料理とケーキ楽しみにしてるな」
日和の前髪をそっと撫であげて額に唇を落としながら呟く。
「楽しみにしてて。すごく美味しいの振る舞うからね」
日和は楓の頬にキスをして下拵えへと戻る。
キッチンからはご機嫌な鼻歌と良い香りが漂ってきていた。