通り過ぎていく光の影を目で追いながら、時折目を休めるようにゆっくりと瞬きをする。
何かが視界に入る。どこの駅で入ってきたのだろうか、親指の爪にも満たない大きさの、小さな蛾が電車の天井の蛍光灯にぶつかっているのが見えた。
暇だ、そう思った。
私は今実家に帰るための電車に揺られている。いつもなら音楽を聞いて時間を潰すのだが、なんとなくカバンから音楽プレイヤーを取り出すのも億劫で窓の外を眺めて過ごしていた。
外はもう真っ暗闇だから車内の風景が鏡のように窓に映し出されている。離れて座っている男性の姿が視界に入り、無意識に目がそちらに行く。
ぱちり、と目があった気がした。
互いに視線を逸らす。
窓に視線を戻すと男性は下を向いてスマホをいじっていた。観察しているわけではないが、窓の外を眺めようとするとどうしても男性の姿が目に入ってしまう。
1994