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    3914 私の中の(PTAみたいな倫理観が許す)最大限のえろす

    カエルの歌が聞こえてくるよ「あ、は…ごめんなさい、でちゃった」
    聡実が恥ずかしそうに言った。口元を手で覆いながら慌ててカバンの中を弄ってティッシュを探す。8月の車内は冷房が効いているとはいえ日光が当たるとじりじりと暑い。
    聡実の額にうっすらとにじんだ汗を指で拭ってから、狂児は聡実から出てきたばかりで生暖かいのを受けとめた。手のひらに垂れていくのを狂児はじっと見つめて拭おうともしない。
    「ちょ、きたないです…」
    「汚くないよ。ほら、これ使って」
    そう言って差し出されたティッシュを握りしめ、どんどん出てくるのをなんとかティッシュで受け止めながら手のひらの中に握りこんだ。狂児はゴミを入れている袋を差し出しながら
    「あ、ほら聡実くん。ハハ、元気やな」
    そう言って覗き込んできた。ちらりと視線を上げて楽しそうに見つめてくる。
    紅潮している顔を見られたくなくて、口元を押さえた手で目元まで隠した。
    「ぅ、んみません。」
    「んー、ええよ。興奮してしもた?」
    「んぅ…」
    「あ、ほら。もうちょい優しくせんと痛くなるで」
    「へいきです…」
    「ほら」
    聡実の手からティシュを取り上げるとゴミ袋に投げ入れて、指先で拭き残しをぬぐった。普段のガサツな振舞いからは考えられないような優しい触れ方だった。
    「あったかいなぁ」
    「ばっちい」
    「そんなことないって」
    そう言いながら聡実の後頭部に左手を添えて、右手で肩をやさしく撫でながらシートに倒した。
    「力抜いて」
    されるがままにシートに倒されると、左手がゆっくりと後頭部を撫で始めた。大きくて分厚い掌が髪の毛と首筋をさする。
    「かわいいなぁ」
    「あにが…」
    「ん?」
    「うぅ…」
    「そう、目ぇ閉じてゆっくりしとき」
    聡実はゆっくりと瞼を閉じた。シートと頭に挟まれている狂児の手がしっかりと聡実を支えてくれているので不思議と安心感に包まれて、自然と体の力が抜けていく。
    「そう、そうしてなさい」
    「はい」
    狂児の手のひらのぬくもりを感じる。頭からスーッと血の気が引いて、心臓が大きくゆっくりと鼓動を始めた。緊張…ではないな。なんやろうか。
    「聡実くん、慣れてないの?」
    「え?」
    狂児の右手が、聡実の手を覆うように包み込み柔らかく握りこんだ。
    「…こんなに出たの初めてです」
    「そうなんや。そっか。そらびっくりしたなぁ」
    「…平気です」
    「うん」
    「…狂児さんも、あるでしょ。こういうこと」
    「え?…あぁ、まぁあるよ。あるけど聡実くんのとはちょっと違うかな」
    「違うって…どう違うんですか」
    「まぁ、自然に出ちゃうっていうのはほとんどなくて、うん…まぁ誰かになんかされたりね」
    「…よぉ分かりません」
    「わからなくてええねん、そんなこと」
    何が、と言い返そうとして言葉を飲み込んだ。所詮、自分のような子供にはわからないことなのだろう。
    首筋にあてられた掌が気持ちいい。あたたかくてやわらかくて、首筋にピッタリとあてがわれていて自分専用にあつらえた枕みたいだ。ぐーっと頭を預けるとさらにしっかりと力を入れて支えてくれた。
    両手を包み込んでいた狂児の手のひらが離れて、聡実の手の中でくちゃくちゃになったティッシュを拾い上げるとごみ袋にポイっと捨てた。
    「喉乾いた?」
    新しいティッシュをさしだしながら狂児が尋ねてくる。聡実はフルフルと首を横に振った。新しいティッシュを受け取ろうとしたところで
    「もう出てへんよ」
    と狂児が覗き込んできた。
    「平気そうやね。よかった、びっくりしたなぁ」
    にこりと笑った顔にいつものうさん臭さがなく、赤ちゃんに語り掛けるような様子だ。聡実はムスッとして狂児をにらみつけたが、狂児はそんな聡実の顔を見ながら
    「頭支えてあげるからしばらくの間目ぇとじてゆっくりしてなさい」
    そう言ってうれしそうな顔をしていた。
    拳一つ分も離れていない距離で見る狂児の顔は、年相応にかさついていて大人の男のにおいがした。くっきりとした隈に縁どられた力強い目元。今は穏やかな笑顔を浮かべているけれどふと目があったときに感じる心臓を掴まれるような迫力は、狂児の職業ゆえなのだろうか。へびに睨まれたカエル、という言葉が頭に浮かんだ。
    身動きが取れない。
    聡実はゆっくりと瞼を閉じた。
    「聡実くん、シートにまで垂れてんで」
    「え、ごめんなさい…」
    「いっぱいでたもんな」
    「あの、僕掃除します」
    「ええよ、あとでやらすから。聡実くんはそのまま目ぇ閉じてゆっくりしてて」
    「そんな…汚いですよ、誰かにやらすなんて」
    「ええから」
    狂児が首筋にあてた手のひらに少し力を込めたように感じた。目を閉じているから狂児がいまどんな顔をしているのかわからないけれど、痛くはないしむしろ気持ちいいとすら思っていたのでそのまま身をゆだねていると、不意に狂児の香水の匂いが濃くなったように感じた。鼻先から入ってくる匂いが頭いっぱいに広がってくらくらする。
    「今日、体育の授業あった?」
    「…ありました。バレーボール」
    「へぇ、聡実くんバレーボール好き?」
    「嫌いです。というか苦手です。背ぇ小さいし…狂児さん得意そうですね」
    「バレーボールな、何回かしかやったことないけどボール拾うとき腕痛いよな」
    「ですね。何でですか?」
    「ん?ボール当たるからちゃう?あれ結構固ない?」
    「そうじゃなくて、体育」
    狂児が言葉を飲み込んだように感じた。
    「なんで体育あったってわかったんですか」
    「なんでかなあ。なんとなく」
    そう答えると小さく笑ったようだ。目を開けたいと思ったけれど、リラックスしたこの状態が心地いいのでそのままにした。
    「あ、あかん、おまわりさんや」
    狂児が急に大きな声を出した。
    「え!」
    聡実の心臓がどきどきと鼓動を始めた。
    「うわぁ、どうしよ。こんなところ見られたら捕まってしまうかも」
    その言葉に思わず目を開いたが、カラオケ天国の駐車場に人影はない。犬を散歩させた老婆が歩道をゆっく歩いていく背中しか見えなかった。
    「どこ?お巡りさんいてへんけど」
    「うそでーす」
    狂児が心から楽しそうな声でそう言った。イラァっと湧き上がる怒りを視線に乗せて、キッとにらみつけて
    「なんやねん、もう!隠れなあかんかと思ったのに!」
    そう怒鳴りつけてから窓の外に視線を移した。心臓がバクバクと高鳴ってうっすらと冷や汗をかいているのが分かる。
    びっくりした。ほんまに捕まったら大騒ぎどころの話じゃない。親に知られたらなんと言われるか…退学、とまではいかなくとも学校に知られたら一大事だ。
    「あはは、ごめんね」
    狂児は心から楽しそうに笑った。笑ったあと、頭を支えていた手で後頭部を撫で始めた。
    「隠れようとしてくれたん」
    「え、あ、はい」
    「ありがとう」
    「…!何が…ぼく騙されて怒ってるんですけど…」
    「そうでした」
    狂児は満足そうに頭をポンポンと撫でるとシートベルトを締めてから車を走らせ始めた。
    西日がまぶしい。鼻血は止まったけれど、悪趣味な嘘で胸の中がザワザワしたので聡実はもう一度目を閉じてシートに深く座りなおした。



    「狂児、お前いつ行くん」
    事務所の固いソファに座り、額を冷やしながら窓の外をぼーっと見ていた。若頭から声を掛けられても返事を忘れるほど、刺すような西日の中でつい先日のことを思い返していた。
    「あぁ、一本電話してから行きます。あとのことお願いします」
    「ええよ、休暇やと思ってゆっくりしてきたらええねん。弁護士はオヤジからよこすから」
    タバコに火をつけて、狂児の対面に腰を下ろしながら手を差し出した。狂児は隣に置いていた鞄を渡してからスマホを取り出し、通話を始めた。事務的な連絡が終わるまで若頭はただタバコを吸いながら待っていた。通話を終えてからスマホを差し出し、狂児はふうと一息ついた。
    「全部空っぽんなったか?」
    「えっと…」
    シャツの胸元を探りながら何かをつまみ出すと、眉を八の字にして愛おしそうに見つめた。ぷらぷらと揺れるその小さなお守りの影が狂児の口元に落ちる。
    「これあの子に投げつけられたんです。見てくださいよ、この柄…アホっぽいでしょ?でもこれわざわざ届けにきてくれたんですよ、ここまで。ふ、来るなって言うてたのに」
    「へぇ…げんきお守りやて。ほなお前、あっこからほとんど無傷で来られたん、そのおかげちゃうか」
    「いやほんまに。命の恩人です。せやからこれだけ持って行きます」
    「あぁ、そう」
    「はい。色々ご迷惑おかけします」
    「ええって。ええけどお前あの子に繋がるもん、何にも残していくなよ」
    「もちろんです。ちょうど車の中綺麗にしたばかりやし連絡先もさっき消しました」
    「そうか。」
    手元のお守りを手のひらに包んでから、再び胸ポケットにしまった。
    「あの子、アホかってくらいのお人好しやから絶対誰も近づけんといてくださいね。一緒におる時、警察来る思って俺のこと庇って隠れようとしてくれたり、なんだかんだ最後まで付き合ってくれるようなええ子なんで」
    「ん、わかってる。後のことはいいようにしとくわ」
    「ありがとうございます」

    陽が落ちてから事務所を出た。

    のんびりと歩きながらあの子との日々を思い返すと自然と笑いが浮かんでくる。自分より高い体温、じっとりと匂いたつ湿度、ふわりと立ち込める汗の匂い。彼の髪の柔らかさや華奢な骨格。小さな子供、いや子犬のような仕草と挙動。そして、あの歌声。
    熱量と衝動を孕んだ歌声が耳から離れない。痛いほど心臓に突き刺さったあの歌声が、今まで感じたことがないほどの高揚感と興奮を掻き立てる。自然と歌を口ずさんでいた。

    あの子が守ってくれようとしたのに結局、警察には捕まってしまったなぁ。

    微塵も後悔などしていない、けれど視覚と触覚と嗅覚、何より聴覚が記憶した彼の存在が少し寂しそうにしているように感じた。
    ごめんね聡実くん、しばらく会いに行かれへん。でも、そうやなぁ…また絶対に会いにいくからそん時は、味覚でも味わいたいな。とりあえず美味しいもん食べにいこ。
    そう記憶の中の聡実に約束をして、狂児は警察署の中へと入っていった。
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