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    zanki_2

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    また寝込んでるのでポチポチ打ってました。ちょっと更新。

    ジェシーズガール2


    リヴァイの道場はジャンの勤めている会社から二駅分ほど歩いたところにある。

    古風な日本家屋の隣に古そうな道場が併設されていた。道場の門には筆書きで「アッカーマン柔術 道場」と書かれた看板が立っている。その隣に、「道場破り歓迎 3秒で伸す」と書いた紙が貼り付けてあった。

    「俺の家だ」
    リヴァイが言った。ジャンは首根っこを掴まれたハムスターより何も出来ない状態で「はあ、」と言った。道場の中は隅から隅まで磨き上げられて光り輝いていた。
    「学生時代なんかやってたろ。陸上か?」
    「あ、サッカーです」
    「なるほどな。最近はとんと運動してないな?」
    「はい、職場に慣れるのが大変で。よく分かりますね。」
    「身のこなしで大体分かる。」
    リヴァイはやっとジャンを開放したかと思ったら、正面から向き直ってジャンを見つめていた。ジャンはリヴァイに見られるとどうして良いか分からなかった。
    「柔軟やってから技一つやる。今日はそれでいい。」
    「はあ」
    「ほら柔軟だ。やれ。」
    ジャンは促されて柔軟体操を始めた。座ってやる前屈運動のときにリヴァイが背中を押してくれたのだが、それが全く容赦がなかった。ジャンはこの人は絶対にSだろと思った。ジャンの身体がどのくらい柔らかいのか分かっているらしく、ジャンの限界ギリギリを攻めてくるのである。リヴァイと会ったのは今日初めてなのに、動きをしっかり管理されていて、ジャンは変な感じだなと思った。
    「シャーロックホームズみたいですね」ジャンが言った。「見ただけでみんな分かるんですか?」
    「アッカーマン柔術をやってりゃ嫌でも分かるようになるぞ。」とリヴァイは言った。「筋肉はムキムキ異性にモテモテ勝ちまくりモテまくりになる」
    「怪しい広告じゃないですか」
    「お前は資質十分だ。いい骨格をしている。真面目にやれば立派なアッカーマン柔術の継承者になれるだろう。」
    「ならないんで大丈夫です」
    「よし、まずは基本中の基本だ。やってみせるから良く見てろ。」
    「ならないんで大丈夫です」
    「見て覚えろ。覚えるまでやらせるぞ。覚悟しとけ。」

    リヴァイはジャンの数歩離れた所に立った。
    ジャンは何をするのだろうとじっと見ていた。
    リヴァイは胸の前で手を合わせた。そして一度だけパァンと手を打ち合わせて鳴らした。

    「…」
    「どうだ、良い音だろう。」
    「はあ、」
    「さあやれ。」

    ジャンは真顔のまま止まっていた。

    「今のをやるんですか?手で音を出すやつを?」
    ジャンが言った。
    「そうだ。」
    「何で?」
    「猫騙しだ。」
    「は?」
    「猫騙しだ。知らねえのか。相撲の技にもあるだろうが。」
    「猫騙し」
    「さあやれ。これが第一歩だ。」
    「猫騙しをやるんですか?やったら非難されるような技を?」
    「そうだ。」
    「猫騙しをやるんですか?キックとかパンチとか基礎体力作るとかじゃなく?」
    「そうだ。」
    「猫騙しをやるんですか?顔の前で手を叩いて相手をびっくりさせるだけの技を?」
    「そうだ。うるせえな。アッカーマン柔術の基本中の基本だ。」
    「そんな基本聞いたこと無いんですけど」
    「これが基本だ。アッカーマン柔術はフェイントだけを突き詰めた独自の格闘術だ。」
    「フェイントだけを突き詰めたら卑怯って言いませんか普通」
    「言わない。」
    ジャンは「音が悪い」とか「腰がなってない」とか言われながら何度も手を叩かせられた。
    「フェイントは良いですけど猫騙しの訓練だけして何の意味があるんですか?普通とりあえず身体作るとか、反復練習するとかあるでしょう。」
    ジャンは眼の前でパンパン手を打ち鳴らしながら言った。
    「お前は今身体作りながら反復練習している。これ以上効率的な鍛え方は無い。」
    「あんまりそうは思えないですけど…」
    ジャンはひたすら叩くのに飽きてきたのでエイトビートのリズムで叩き始めた。
    「遊ぶな。真面目にやれ。同じリズムでケツ百回叩くぞ。」
    「単調だから辛いんですよ。音楽でも鳴ってないと辛いですよこれ。」
    「俺が歌ってやろうか。ジョン・レノンのマザーを歌う。」
    「大丈夫です。急にやる気が湧き上がって来ました。」
    「待てよ、お前は大事なアッカーマン柔術の後継者だ。座学は大事だ。アッカーマン柔術の由来から聞かせてやる。」
    「いいですいいですいいですいいです。後継者じゃないから大丈夫です。」
    「アッカーマン柔術の由来は平安時代末期に遡る」
    「いいですって!!!大丈夫ですって!!!」
    「源平の合戦に勝利したアッカーマン一族は調子に乗って落ち武者狩りを始めた」
    「源氏?アッカーマン源氏?」







    その次の日、エレンとジャンは緊急会議を行った。
    昼休みに抜け出して行った日本料理の店は会社の飲み会にいつも使われているチェーン店なのだが、初めて入った個室があまりにも狭く、しかもヤニ臭くて、ジャンは閉口した。
    ここで合意が取れたことはひとつ、「付き合っている振りをこのまま続ける」ということである。少なくとも然るべき時が来るまで、つまりミカサが帰還し秘密裏に襲撃者を締め上げるまでは、リヴァイのガードが必要だとエレンは主張した。

    「いつ襲われるか分からないんだろ?リヴァイさんがいれば安全だ。」とエレンは言った。「そういや電話したらミカサが謝ってたぞ。『必要ないと思ってエレンには特に伝えてなかった。ジャンがエレンと付き合っている振りを始めるとは思わなかったので悪いことをした。』って」
    「さっき俺にも直接ラインが来たよ。」ジャンが答えた。
    「『今度帰ったら全員を二度と逆らおうと思わなくなるくらい殴るから安心してほしい』って言ってた」
    「あ、はい。それより、リヴァイさんに事情を説明したら良いんじゃないか。黙ってる必要あるのか?」
    「リヴァイさんは凄く厳格なんだ。嘘をついたのがバレたらメチャクチャ怒られる。怖いからヤダ。」
    「ヤダってなんだよ」
    「どっちにしろジャンをガードしてもらう必要があるだろ。危険だし。このままのほうが良くないか。同じ事なら黙ってて欲しい。ミカサが帰ってきたらそいつらを殴りに行くから。」
    ジャンは不満を絵に書いて額縁に入れたみたいな顔をしていた。エレンが言った。
    「しょうがないだろ。他にいい案あるか?」
    「ある。今すぐお前と別れた事にする。」
    「嘘ついたのがリヴァイさんにバレるじゃないか」
    「お前が知り合いのおじさんに怒られないために俺が週7で格闘技の道場に通わないと行けないわけか?」
    「俺がジャンと別れた事にして、その話が世間に伝わるまでにはラグがあるだろうし、ミカサを襲撃してた人間がどう動くかは分からないだろ。ジャンには悪いと思うけど、俺はきっちりミカサが叩いた方が確実に安全を確保出来ると思う。というか、今後のために叩いておきたい。」
    「俺にタゲを向かせておいて裏で動きたいんだな?」
    「うん。その間のガードは必要だろ。まあ何にもないかも知れないけどな。ボディーガードにリヴァイさんがいれば安心だよ。ジャン、頼むよ、その方が安全策だと思う。俺も怒られなくてすむし。」
    ジャンは不満が多過ぎてどこから文句を言えばいいのか思いつかなかったが、エレンの意見は一応筋が通っているとは思った。
    「ミカサはいつこっちに来られるんだ?」ジャンが言った。
    「2、3ヶ月後かな」
    ジャンは完全な絶望顔をした。
    「ここんとこ連戦でスケジュールが埋まってるらしい。2ヶ月か3ヶ月我慢してくれ」
    とエレンは言った。
    「お前マジで覚えてろよ。貸しだからな。」
    ジャンは酷く低い声を出した。
    「うん。そういやリヴァイさんとはどうだった首の所掴まれて連れて行かれたけど。」

    ジャンは言った。
    「どうもこうもねえよ。」



    次の日である。
    朝起きて一番にジャンは鳩が豆鉄砲を食らったような顔にされた。
    前日に言われたとおりにリヴァイがジャンを迎えに来た。リヴァイはジャンをガードするためにジャンの会社までの行き帰り付き添うという事だった。ジャンは流石にそこまでされると申し訳ない気持ちになった。いや、それは良い。それは良いのだが、

    「ど、道着ですか」
    「そうだ。俺が手縫いでお前の名前を縫ってある。感謝しろ。」

    リヴァイがジャンに手渡した真っ青な道着には「ジャン・キルシュタイン」とキッチリとした文字で刺繍されていた。
    「手縫いの道着」
    「よし、それ着て道場まで走るぞ。朝練やった後スーツに着替えて会社行け。道場のシャワーがあるから安心しろ。」
    「おじさんの手縫いの道着」
    「さあ柔軟やるか。」リヴァイが首を回して骨をポキポキ鳴らしなら言った。
    「大丈夫ですか?俺いつの間にかアッカーマン柔術の継承者にされてませんか?」
    「されてない。お前を朝から晩まで仕込むからな。忙しいぞ。」

    ジャンはまた柔軟でギリギリを攻められて低いうめき声を上げた。
    リヴァイは他人の身体をコントロールするのがひどく上手かった。ジャンがもう耐えられない、と思った瞬間に開放するので、ジャンはなんだか妙に心地良かった。

    ジャンはそのままリヴァイと並んで道場まで走るはめになった。
    朝の空気は澄んでいて心地良かったのだが、しかしこのサッカー日本代表みたいな青い道着は少しばかり恥ずかしいと思った。その上背中に丸の中に『ア』と書かれた道場の紋様みたいなものがデカデカと、ビッチリと刺繍されているのである。

    「こんな朝に走るの久しぶりですよ」
    ジャンが言った。
    「悪くないだろ。」
    リヴァイが言った。
    「そうだけど、急にはキツイですよ。全然運動してないんで。」
    「今の奴らは体力ねえなあ。俺がお前くらいの歳の時は有り余ってたぞ。」
    「はあそうすか」
    「移動は走ってたし待ち時間はずっとシャドウボクシングしてた」
    「異常者じゃないですか」


    道場につくと、リヴァイが「今日は新しい技を教える」と宣言した。

    「猫騙しはもう良いんですか」
    「良くない。技やった後百猫騙しさせる」
    「百猫騙しさせる」
    「今日は『蝿嵐』だ」
    「今日は『蝿嵐』」
    「そうだ。うるせえな。アッカーマン柔術二ノ型蝿嵐だ。これも基本だ。覚えろ。」
    「アッカーマン柔術二ノ型蝿嵐」

    リヴァイはジャンの数歩離れたところに向き合って立った。
    ジャンは何をするのだろうとじっと見ていた。

    リヴァイは両の手のひらを影絵のキツネのような形にして手を広げたかと思ったら、物凄い速さで何度もキツネの手を四方八方に突き出した。ヒュンヒュンヒュンヒュンと風を切る音が道場に響いた。

    「どうだ、速いだろう。」
    「はあ、」
    「さあ、やれ。」

    ジャンは真顔で固まっていた。

    「今のをやるんですか?今のなんか手をいっぱい動かすやつを?」
    「そうだ。」
    「何で?」
    「蝿嵐だ。聞いてたろうが。フェイントを百回出す王道技だ。」
    「フェイントだけをいっぱい出してもしょうがなくないですか?ただ疲れるだけじゃないですか?」
    「バカ言え、この速さで動ければ同じだけ相手を殴れるんだぞ。」
    「はあ」
    「常人が一回殴る所を俺は十回殴れる。これを習得すれば百殴り間違いなしだ。」
    「要はスピードが上がるんですね。分かりました。やっぱりやたらフェイントするくだりだけ要らないような気がするんですけど…」
    「さあやれ。朝軽くランニング、蝿嵐千回、猫騙し百回、我ながら初心者に優しい良いメニューだ。完璧だ。」
    「え、千回?」
    「先ずは手をキツネの形にすること。これは先祖代々伝わるポーズだ。忘れるな。」
    「え、千回?」
    「キツネのポーズは先祖が油揚げを神社から盗もうとしたときに由来する」
    「いいですいいですいいです座学はいいです!!!」


    会社に間に合う時間までが制限時間なのだが、その時間にはジャンは蝿嵐千回で完全にヘタばって地面に座り込んでいた。

    「おい、猫騙し出来なかったのかよ。しっかりしろ。若いんだろうが。」
    リヴァイが言った。
    「こんな事やって意味あるんですか?絶対明日肩死んでますよ。」ジャンは息絶え絶えである。
    「ある。俺はこれで世界王者になった。」
    「ならないから。ただのサラリーマンだから。」
    「シャワー浴びて着替えて来い。会社まで送ってやる。」



    シャワーを終えてスーツに着替えたジャンは、同じく清掃作業の作業服に着替えたリヴァイを見てこう思った。
    (やっぱりこの人、カッコいいよな)
    リヴァイは引き締まった筋肉のお陰で、地味な作業服を着ていてもサマになった。それから、道着を着ているときの方が堂に入っていてカッコ良かったなとジャンは思った。
    (やっぱり格闘家なんだな。この人。)



    「世界王者って、リヴァイさん、有名な人なんですか?俺全然知らないけど。」
    駅に向かってリヴァイと歩きながらジャンが言った。
    「昔の話だ。格闘技が好きなやつなら名前を知ってるかもな。今は趣味だった掃除を本業にしてる普通の社会人だ。それより歩きながらでも猫騙しは出来るぞ。やっていくか?」
    「そんなパンパン手を叩きながら歩いてたら目立ってしょうがないでしょ。やらないですよ。」
    「オイオイ気にするなよ。先ずは身体を鍛えることを優先しろ。アッカーマン柔術をやれば全身鍛えられてモテモテになるぞ。」
    「はあ」
    「勝ちまくりモテまくりになる」
    「そんなにやる人少ないんですか」
    「…」
    リヴァイが黙ったのでジャンは察した。ジャンは慌てて言った。
    「じゃあリヴァイさんも現役選手の時はモテたんでしょうね」
    「…まあな」
    「世界王者ですもんね。若い時は大変だっんでしょうね。」
    「…………」
    リヴァイが黙ったのでジャンは察した。ジャンは慌てて言った。
    「今年は桜いつ咲くかなあ。桜が見たいなあ。桜が大好きなんだ俺は。」
    「誤解するな。俺はモテた。」
    「今年は阪神優勝するかなあ。全然ファンじゃないけど気になるなあ。」
    「モテにモテた。クソみてえに遊んだ。恋人がいなかっただけだ。虚しくて辛いぞあれは。恋人は大事にしろ。」
    「俺、変な男が寄ってくるから、困ってたんですよ。護身術は良いかもしれないですね。エレンと付き合うまで危ないこともあったんですよ。」
    「ふうん」
    「何で俺に来るのか不思議だったんですよ。モテて都合が良いならなら良いけど、しんどいし。面倒くせえし。」
    「ふうん」
    「高校大学は大変だったんですからね。」
    「ふうん」

    リヴァイはそう言うと、突然手をキツネの形にして目にも止まらぬ速さで何度も突き出し始めた。ジャンはポカンとしてそれを見た。と思ったら、リヴァイがいつの間にか左手でパッとジャンの顎を引っ掴んでいた。
    リヴァイはジャンの目と鼻の先に自分の顔を近づけた。少しばかり頭をひねった。

    「お前に男が寄ってくるのは分かるな」
    とリヴァイは言った。顔が近くて息がかかった。
    ジャンは息が出来なかった。
    「は、」
    リヴァイはジャンの額にコツンと額をぶつけた。リヴァイが言った。
    「止まり木だ」
    「は?」
    「『蝿嵐 止まり木』だ。応用技だ。どうだ。蝿嵐は使えるだろ。咄嗟に全然反応出来ねえ。な?」
    リヴァイは顔をジャンから離すと、何事も無かったかのようにまた歩き出した。
    「お前はからかいがいがあるなあ」と言った。リヴァイは微笑んでいた。

    「可愛いなお前。」

    ジャンは顔を真っ赤にして、リヴァイが話しかけても会社までずっと一言も口を聞かなかったらしい。




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