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    chobisx

    表に置きにくいもの。カプごちゃ混ぜです
    R18のものはリスト限定。成人済みとわかる方のみリスインしています

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    chobisx

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    先に体の関係もっちゃうまろすいと自覚なし×自覚ありのまろすい読みたいッショ…の気持ちで書きました

     引き寄せられるように目を合わせて、どちらともなく手と手を重ねて、そのまま。吸い寄せられるように重ねてしまったのは手だけではなかった。普段であれば悪い冗談だ、なんて誤魔化すことも出来ただろうけれど、冗談で済ませられるほど理性は働いていなかった。
     ただただ、もっと触れてみたいと思った。
     拒絶されないことが心地よかった。
     触れ合った肌がまるでひとつになったみたいで、重なる吐息も、声も、どうしようもなく欲しくなって浅ましく求めてしまった。
     お互いの熱が覚めた時のことなんて一瞬も考えず、ひたすらに今目の前にいるものを追い続けた。彼の名前を口にしていたかどうかすら記憶には残っていない。ただ、熱くて、どろどろに溶けているそのときに心が満たされているような気分になった。
     その熱が弾けて、自分が清廉な彼を汚してしまったと気付いた時に、やっと言葉らしい言葉を発することが出来た。



    「おはよう」
     よくある朝のひとこまだった。ぼんやりと声がした方を寝ぼけたまま目を向ければ、清麿よりも早く目覚めたらしい水心子は既に布団も綺麗に折りたたんで、内番のジャージに着替えている最中だった。口元を深めの襟で隠されてしまえばそれ以上の表情は伺えない。
     ああ、そうだ。水心子は今日は朝から内番の仕事が入っていた。――そう、そんな話を、昨夜、していた。

     冬の朝は寒い。今日は非番だから、というのを都合のいい言い訳にしてこのまま布団をかぶったまま再び瞼を閉じて眠ってしまっても許されてしまう日だ。

    「まだ寝てる?」
     水心子はいつもと変わらない、落ち着いた声のトーンでそう問いかけてくる。
     清麿も「うん」といつもの調子で返せたらよかった。
     ゆっくり、ゆっくりと布団を持ち上げて少し重たい体を起こせば、「やっぱり起きるのか?」とこちらの様子を伺ってくる水心子がいる。

    「、あの」
     目が、合うか合わないかの瞬間に、そっと逸らされた。
    「先に食堂に行ってる。配膳の手伝いをしないと」
    「……うん」

     じゃあ、またあとで。と言いながら部屋の襖に手を掛ける水心子は普段と変わらない。――ように見えても、些か歩き方がぎこちないような。腰を庇うような歩き方をする水心子を見て、咄嗟に立ち上がった。昨夜の出来事が走馬灯のように頭の中を駆け巡る。

     内番の仕事とか、配膳とか、今日はそんなことをしている場合ではないだろう。

    「水心子、待って」
    「待たない」
     その凛とした声が放ったのは拒絶だった。
     明らかに線を引いた言い方に、水心子自身も驚いたのか目を見開いて、清麿と合っていた目を逸らす。すぐに気まずそうな、そういうつもりじゃないとでも言いたそうな心子の表情を見て、少しほっとした。本人も本気でこちらを拒絶するつもりはないのだ、と直感でわかる。

     話をしたい。……昨夜のことを、謝らなくてはならない。
     どう話せばいいのだろう。こんなことは、初めてで、頭の中がごちゃごちゃになる。普段ならばもっと落ち着いて、適切な言葉を選べるはずなのに。
     昨夜の水心子と、目の前にいる水心子が同じひとなのだと思うと、自然と顔に熱が集まってしまう。火照る頭と体に、「ああ、昨日のことを思い出している場合ではないのに」と記憶を反復してしまう自分がいやになる。


    「待っているのはお前だ」

     しばらくの沈黙の後、耐えられず口を開いたのは水心子だった。

    「えっ」
    「夕方まで待っていろ。私の仕事が終わるまで」

     そうしたら、話があるから。と、たどたどしい歩き方で向こう側に行ってしまった彼は襖で半分顔を隠しながら言った。

    「う、うん」
     清麿の返事を確かに聞いて、水心子は「絶対だぞ」と念を押してぱたん、と襖を閉めて出ていってしまった。ぱたぱたと駆けていく音。――離れた場所でどこかにぶつけた音も聞こえたけれど、それも水心子なのだろうか。

     どこまでも真面目な刀だ。絶対に本調子ではないはずなのにこんな朝早くから働いて、他の刀の前では弱音など吐かずに淡々と仕事をこなすのだろう。自分の身体を労わることもせず、それすらも隠しながら。まだやれる、なんて口にしながら。
     そんなところが放っておけなくて、目を離せなくて、甘やかしたくもなるけれど本人がそれを許すわけがない。易々と他のものに心を委ねない、凛として立っている姿が様になってひた向きに前を向き続ける廉潔な心。そう、自分の意志を曲げない頑ななところも含めて好――

    「……」
     
     好き。
     言葉を喉の奥で噛み締める。
     でも、この言葉が正解なのかどうか、わからなかった。確かに好いてはいるけれど、昨夜は衝動に飲まれるように水心子に触れてしまった。
     まだ残っている。まだ覚えている。
     これが正しい「好き」なのかわからない。そんな人間のような感情を、今まで抱いたことすらなく、ましてや一番近くにいた水心子に欲を含めた感情を向けるような覚えもなかったのだから。

     忘れてもらおう。
     彼が、自分を許してくれるのならば、の話になるけれど。
     水心子もいつもと変わらないように見えた。もしかしたら水心子も昨夜のことは忘れよう、と思っているのかもしれない。
     だとしたら。
     ――だとしたら、これは喜ばしいことなのだろう。なにもなかったかのようにお互いに振る舞えば今まで通り、友達として水心子の隣に立つことが許される。それがきっと、正解だ。
     大丈夫だ。元通りに戻れる。はずなのに、ぼんやりとした不安が胸の中に残っていて、相手の感情が見えないことがこれほどまでに怖いものだとは知らなかった。




     忙しなく、忙しなく、駆けてゆく。
     落ち着いて清麿の隣に水心子が座ったことなど、午前のうちの一度でもあっただろうか。なんとなく気まずくもあって、水心子に待っていろと言われたせいもあるけれど、朝食の時間に水心子に声を掛けることもしなかった。
     別段、これは珍しいことではない。清麿だけが内番の仕事がある日は水心子がひとりだったり、他の刀達と食事を摂っていることもあるし、共に過ごしている部屋から出てしまえばひとりとひとりで過ごすことだってよくあることだった。

     それでも今日ばかりは落ち着かず、胸のあたりがざわざして、気が付けば水心子のことをちらちらと横目で追ってしまっていた。
     ――やっぱり、歩き方がぎこちない。周りの刀にも気付かれているようにも見えるのに、彼はなんといって誤魔化しているのだろう。

    「気になりますか?」
     ひょこっと背後から現れたのは物吉貞宗だった。清麿の様子も、他の刀には違和感があったらしい。……あれだけ目で追っていれば気付く刀は気付くか、と内心ひやりとしたけれど、物吉はからかうつもりではなく、心配そうに眉を下げて、水心子に目をやる。
     ふたりの目線の先にいる水心子は主に頼まれたのだろうか、なにやらひとつやふたつでは済まない荷物を抱えて廊下を歩いている。――あ。頭をぶつけた。

    「ボクも朝から気になっていたんですけど」
    「うん?」
    「水心子様、今日は体調悪いのかなって」
     なんだかふらふらしてるし、声をかけてもちょっと上の空というか、顔も赤いような気がして。
     そう思いませんか? と問い掛けられれば、僕もそう思っていたと素直に返していた。

    「主様にも相談したのに、いじわるするんです」
    「あの荷物は主の命なの?」
    「はい……お互い意地を張ってしまったようで……止められなくてごめんなさい」
    「……ああ」

     その様子は目に浮かぶ。この本丸の主と水心子は相性が悪いというか、主が水心子にちょっかいを出し過ぎるのだ。それに水心子が反発をして、買い言葉に売り言葉。自分の身体を鑑みずに荷物の移動を引き受けてしまったのだろう。……まったく、あの主はなんて余計なことをしてくれるのだろう。水心子が断るはずなんかないっていうのに。一度、自分が何とか懲らしめてやりたいと思った。

    「それで、主様が清麿様に頼んでみろって」
    「僕?」
    「俺の言うことは聞かないだろうけど清麿の言うことなら聞くんじゃないかって主様は言っていました」

     ――水心子の身体の異変の原因を作った清麿に、まさかそんな役割が回ってくるとは。
     この場に主がいなくてよかった。多分、主は子どものように見えても聡い男だから一瞬でも返答をためらっている清麿に「なにか」があると察せられてしまう。それだけはどうしても避けたい。自分と水心子の間にある「なにか」を主や他の刀には見つかるのだけは逃れたかった。

    「僕のいうことを聞いてくれるかはわからないけれど」
     笑顔を繕う。
     朝の段階で拒絶されている身だ。待つことも出来ず、水心子のいうことを守れない自分のいうことを聞いてくれるかどうかは、本当に不安だった。でも心配は心配だ。本当であれば朝から部屋に閉じ込めていたかったくらいなのだから。

    「水心子に言ってみるよ」
    「残りのお仕事はボクが代わりますから!」
     清麿の返事を聞いた物吉はほっとしたように満面の笑顔を浮かべる。彼は優しい刀だった。脇差の特性もあるのだろうか、よく気が付くし、世話を焼くのも手伝いをするのも積極的で、こうやって手助けをするのも好んでいるらしい。

    「物吉はすごいね」
     
     そう、褒めてみれば物吉はきょとんとした表情をでこちらを見上げてきた。無防備なその表情は愛らしく、――ああ、確かにこんな愛らしくもあれば主も傍に置いておきたくなるか。と主のことを理解したくもないのに理解出来そうになってしまった。

    「……あ」
     軽く目線を逸らした物吉が、不意に声を漏らして、あの、と遠慮がちに更に顔を近づけてくる。ん? と少し屈めば耳元に口を寄せられ、
    「……水心子様が、すごい顔でこちらを見ているんですけど、なにかやってしまったんでしょうか……」
     と、こそこそと話された。

     ――……水心子が?
     後ろに視線をやれば、バランスを崩さぬように姿勢を整えながら荷物を抱えた水心子が、こちらを凝視していた。それはもう、なにか恨めしいものを見るような、そんな目で。
     今の清麿に、その目線は効く。
     その目だけで心にだいぶ傷を負ってしまったけれど、はた、と双方の目が合った瞬間、水心子は勢いよく走りだそうとしていた。

    「……っ」
     荷物を抱えて、体も万全ではない水心子が走り出そうとしても、そうはいかないのだけれど。
     いくつかの荷物を落として、拾って、また落として――を繰り返しながらもそれでもその場から逃げ出そうとする水心子に清麿と物吉は簡単に追いついてしまう。

    「水心子、待って」
     清麿が声を掛ければ、持っていた荷物があっという間にすべて水心子の腕から落ちてしまった。それらを拾いながら清麿と、その後ろにいる物吉にばつの悪そうな目を向ける。
     腰を曲げて拾うのも辛いのか、小さくうめいた声を清麿も物吉も聞き逃さなかった。

    「私なら大丈夫だと、何度言えば」
    「その大丈夫は大丈夫じゃないんです」
     何度も繰り返している言葉のやり取りなのだろう。意地を張る水心子に、物吉も同じように意地を張る。顔を合わせれば反発し合っている主とは違い、本気で心配している物吉自身を無下に扱うこともできず、むう、と不満そうに眉間に皺を寄せることしか出来ないのがもどかしそうに見える。

    「体調が悪くてお休みするのは悪いことじゃないって主様もいってたじゃないですか」
    「主の意見に同意はしたくないけれど、僕もそう思うよ」
    「……清麿は本当に主のことが気に入らないんだな……」

     清麿の言葉に、水心子はすこし気を緩めたのか、わずかに笑みにも似たため息を吐いた。
     ――よかった。物吉の前では、普段通りに接してくれている。その些細な水心子の声でほっとした。

    「……わかった。休みをもらうことにする。この荷物を片付けたら……」
    「あとはボクがやっておきますから!」

     お部屋に戻っていてください、何か欲しいものがあれば言ってくださいね! と物吉は自分の任務が上手く遂行できたのがうれしいのか、器用に荷物をかき集め始めてしまう。ひょいっと軽々持ち上げてその荷物たちに苦戦していた水心子のことすら置いていって軽快な足取りで去ってしまったのだ。
     基本的にはこちらの意見を聞いてくれるけれど、たまに、ものすごく強引だ。

    「お礼すら言えなかった」
    「後でで、いいんじゃないかな」
     そこにふたりだけで残されて、廊下がしん、と静まり返ってしまった。いつもなら聞こえるはずの刀達の声があまり聞こえない。みんなでどこかへいってしまったのだろうか。ここに、本当にふたりだけになったような気分になった。
     背筋が伸びるような、胸がぎゅっと締め付けられるような、指一つ動かすのにも苦労をする、そんな感覚に苛まれる。
     
    「戻ろう」
     乾いた喉の奥から絞り出した声に、水心子はうん、と頷いた。




     手を引いて歩いてもよかったのだろうか。歩くのさえ辛いのだったら手を貸そうと一度出しかけた自分の手を引いた。そう簡単に触れられるほど今の状況を楽観して行動することはできず、隣同士で歩いていく。互いに口を開かないせいか、近くにいるはずなのに随分と遠くにいるように感じた。
     
     ふたりだけになれる空間、ふたりだけの部屋の襖に手を掛けるのだってすら緊張した。ここから先に進むのになぜか躊躇してしまう。もうすでに、過ちは犯してしまったのだからこれ以上恐れることはない、といえば確かにそうなのだけれど関係が変わってしまうことが恐ろしくなってしまった。

     清麿、と呼ばれる。
     いつものふたりの部屋に水心子は足を進めていた。ふてくされたようにしかめっ面をして、こちらを見ている。
    「待っていろと言ったのに」
    「ごめんね」
    「そんなに焦らなくても私はちゃんと戻ってくる」
    「うん、ごめん」
    「それとも清麿には私が逃げるような刀だと思っていたのか」
    「ごめん」

     壊れたからくり人形のように同じ言葉を繰り返すことしか出来なかった。
     謝りたいのは、そういうことではなくて。だからといって自分から切り出すのも、昨夜の記憶を水心子から呼び覚ましてしまいそうで、自分が浅ましく求めた姿を思い出してほしくもなくて。視線を足元に落としたまま、動くことも出来なかった。

    「……」
     深くため息を吐く声が聞こえる。
     このまま、呆れられて出ていけと言われてしまうのかもしれない。
     ――…それは、すこし嫌だな。すこしではすまないくらい、嫌だな。

    「……じゃあ、私も謝らせてもらう」
     少しの沈黙の後、水心子は再び口を開いた。その言葉に驚いて顔を上げれば、水心子が申し訳なさそうに顔を歪めていた。 
     水心子が謝ることなんかない。むしろ、清麿がただ許しを請う立場で、水心子はそれを許さなくてもいいのだ。

    「今朝は置いていってごめん」
     真摯な眼差しが清麿を射抜いた。

    「あんな顔をした清麿を残していくのは、悪いことを、したと、……でも、やっぱり、気恥ずかしくもあって……つい避けてしまった……」
     真剣な表情が徐々に崩れていく。真っ直ぐにこちらを見据えていたと思えば、視線がずれて、下へ下へと向いていき、すっかりと深い襟に顔を埋まってしまい、ごにょごにょと声すらも聞こえ辛くなる。
     清麿の気持ちなど、今はどうでもいいのだ。清麿自身は置いて行かれたとは思っていないし、普通に会話をしていてくれているだけで嬉しかったのに。

    「どうして水心子が謝るの」
    「……申し訳ないと思ってるから」
    「僕、ひどいことをしてしまった」
    「それは確かに」
     素直な言葉に、やはり胸が痛む。
     水心子は清麿の腕を引いて、襖をそっと閉めた。そういえば、本丸に誰かの気配がないからといって油断していた。こんなことにまで気が回らなくなるなんて、自分自身に落ち込みつつ、掴まれたままの腕に水心子の温かい体温を感じられた。
     驚いた。清麿が躊躇っていたことを水心子はすぐに行動に移して、こうも簡単に触れてしまうのだ。腕を離してほしい、とは思わなかった。そのわずかに伝わる体温が、心地いい。

    「本気で嫌だったら殴って止めてるし、いつでも逃げ出せたよ」
     ぼそ、と小さく零された声も、拾いきれる。お互いに身長差があまりないせいか、体を寄せれば顔も近く、水心子は逃さないとでもいうように清麿の表情を伺ってくる。

    「聞いてもいい?」
     うん、と頷く。


    「……昨夜のことは忘れなくてもいい?」

     清麿の返事を聞いて、その言葉が発せられるまで、しばらくの間があった。水心子自身もそう問いかけてもいいのか、不安だったのだろうか。実直な瞳はかすかに揺れて、清麿の次の言葉を待っている。

     忘れて欲しい、と言えたらよかったのだけれど。

    「どうしてあんなことをしたのか、自分でもよくわからなくて」
    「……えっ」

     ごめん、と謝罪をするしかなかった。
     行為の最中と終わりのことは覚えていても、その前になにかあったのかはよく覚えていないのが正直なところだった。たしか、普段通りに会話をしていたはずなのだけれど、何がきっかけだったのかすっかり忘れてしまっていた。
     素っ頓狂な声を上げて、戸惑いながら「ええ……?」だの「ううん……?」だの呻いている水心子の姿は可愛らしく面白くもあったけれど今は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

    「あんなことをするのはこう……気持ちが昂ったとか、なにかあるからなんだろう。僕に対する気持ちがなにかあったんだろう!?」
     ――そう……なんだろうけれど。
     今度は清麿が「うーん……?」と考え込む番だった。
     
    「僕、信用されてる?」
     軽い口調でそう問えば、
    「清麿は私を辱めようとか、そういうことをする刀じゃない」
     と、生真面目に返されてしまったからなんだか恥ずかしくもある。
     ほっと気が抜けて、口元に笑みを浮かべそうになるけれど、真面目に答えなければならない。
     自分を落ち着かせて、自分なりの言葉で語れば水心子はわかってくれるはずだ。それが明確な答えじゃないとしても、きっと。

    「水心子に対するこの気持ちをなんて称していいのか、正しいのかもわからない。中途半端なままだと水心子に失礼だから、僕がちゃんと理解出来たときに言わせて」

     目を見て言えば、ふふ、と困ったような笑みを返される。
     
    「僕が思ってる以上に清麿って難儀な性格してる?」
    「そうかも」
     互いに目を合わせて笑い合う。離れている時間は少なかったはずなのに、こうして気を楽にして話をするのも随分と久しぶりのような気がした。水心子と話をするのを恐れていた自分が、馬鹿らしくも思えた。彼はこうやって驚くくらいの包容力を見せてくれる。

    「清麿が答えを見つけるまで、……いや、一緒に見つけられたらいいな」
     無理をさせていないか不安になってしまうけれど、穏やかに目を細める水心子を見ればそんな不安も消し飛んでしまうくらいだ。
    「いつになるかわからないよ」
    「ゆっくりでいいよ。いつも清麿は僕に付き合ってくれてるし」
     掴まれていた腕はいつの間にか指に絡められていた。無邪気に手遊びをするように触れられる。ただ触れ合えることがうれしい、みたいな他意のない水心子の指に、とくとくと心臓の音が速くなってくるのを感じる。
     ……だめだ、これ以上触れられてしまうと、胸が爆発しそうになる。だからといって振り払うのも、わざとらしい、水心子を傷つけてしまうかもしれない。さてどうしようか、――と考えあぐねていると、突然水心子がはああ、と大きなため息を吐きながらその場に座り込んでしまった。
     「気が抜けた……」と、水心子は照れくさそうに笑った。

     話に夢中になっていたけれど、部屋に来たのはそのためではなかった。水心子を休ませるために物吉の手も借りたというのに。
    「身体、やっぱり辛い?」
    「ちょっとだるい……」
    「お布団、敷こうか」
    「うん……」
     てきぱきと押し入れから水心子の布団を取り出し、床に広げる。そうだ、空調も整えなければ。部屋を暖かくして。ついでに水心子を布団に運ぼうとしたら、それはいい、と拒否されてしまった。

     枕に顔を埋める水心子の前髪を払いながら、そのまま額に触れる。清麿の手が冷えていたせいか、水心子はすこし驚いた後、気持ちよさそうに目を伏せた。

    「熱はどうだろう。物吉が水心子の顔が赤い気がするって言っていたし、普段の疲れが溜まっているのかも」
     どうせならば申し訳ないけれど今日の仕事はすべて物吉に引き継いで、ゆっくりと休ませてもらう方がいいかもしれない。水心子は非番であっても滅多に体を休めるということはしないし、こうでもしないと体から疲れが抜けないかもしれない。
     熱があったら大変だ。まだ本丸に配属されてから発熱というものは互いに経験はしていないけれど時折他の刀が熱を出したと耳にしたことはある。なにやら苦い薬を飲まされるとか。
     
    「あれは、ちょっと……思い出しちゃったせいで、……なんかまだ、感覚が、……入っている気がして……」
     ――どうやって水心子に苦い薬を飲ませようか、と考えている最中にとんでもない言葉が水心子から発せられたような。
     照れのせいか、掛け布団ですっかり顔を隠してしまった水心子に、清麿も釣られて顔を逸らす。

    「……ごめん」
     さすがにそればかりは謝ることしかできない。
     ぽっと火照る顔を水心子に見られないように、「なにか飲み物を取ってくる」とだけ言い残して急いで部屋から飛び出した。足取りは先程と打って変わって軽い。冷えた空気が赤く染まってしまった体には気持ちよかった。
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