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    itokiri

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    イデ監
    バレンタインの話

    ##イデ監

    甘くて仕方がない いくら監督生氏が鈍感中の鈍感だとしても、バレンタインというイベントくらい知っているだろうし、拙者のことが好きとか嫌いとかそういうのがなかったとしても、義理のチョコを配る的な作業でお恵みがあるだろう。
    「甘いものならなんでも食べられる」「別に甘くなくてもいい」「いっそチョコでなくても全然いい」的なことを所々で挟んできた。
     数ヶ月に及ぶ根回しが功を奏するはず。

     だったのだが。
     おかしい。絶対なにか間違っていると思う。もしかしたら今日って十四日じゃない? いやいや全部のカレンダー十四日だし、端末のカレンダーに至ってはしっかりくっきりバレンタインデーの文字。
     しかもソシャゲのイベント報酬もバレンタイン系だった。

     日付は後三時間で変わる。

     いや。これがさ、みんなに配っていないのであれば、別にこんな変な気になることはなかったわけで、監督生氏が拙者以外のネームドキャラ(拙者の独断と偏見)にはチョコ配りしていましたから、おかしなことになってるわけで。
     お菓子だけに。全然おかしくないが⁈

     ここで数ヶ月に及ぶ僕の地道な努力の回想を挟んだ上で、なぜ僕がこんな気持ちになっているのかを説明したいと思う。


    ──数ヶ月前

    「糖分って大切だと思うんですよね〜。拙者頭を使うタイプの人間ですし」

    突然どうした? という監督生氏の顔を直視できなくて、タブレットを盾にして「いや、言ってみたダケで、特に深い意味とか、ない、デス……スマセした……」とフェードアウト。

    「先輩は人が作ったもの食べないと思ってました」
    「ひ、人によりますし! 誰が作ったかわからないのはイヤだし、急に手作りとかそういうのはちょっと……で、でも! き、君が、……ど、どうしてもっていうなら、貰ってあげてもいい……かも、で」
    「……ふーん……」


    ──回想終了

     そのふーんの横顔がさ、意味深だったわけですよ。
     勘違いかもしれないし、幻覚だったような気もするけれど、なんとなく含みがあるようなそんな感じだった。
     というか拙者の回想ヤバすぎか? 

     要するに、僕はもらえないことにどうこうっていうのではなく、これはもう所謂本命イベントになっているのでは? ということに対して焦っているということなのだ。

     きっと色々頑張って作ってくれていたのだろうけれど、失敗して渡しに行けず、でも渡さないままで終わってしまうと関係がこじれてしまうんじゃないか、そんな不安に苛まれているに違いない。きっとそう!

     ここで僕がすべきこと、それは監督生氏に会いに行き「どんなものでも君の作ったものだったら全部食べるよ」とサラッと決めて散々な出来のチョコを平らげることだろう!

    「兄さん。こんな夜中にどこに行くの? しかもちゃんと制服着て。いつもならパジャマの上に実験着羽織ってるのに」
    「オルト、兄ちゃんは今から春を迎えに行くから」
    「えーーっ⁈ どういうこと? それって新しいギャグかなにかだった?」

     オルトの言葉を背に頭の中にお花畑を蓄えて、自分史上最も軽やかな足取りでオンボロ寮の前までやってきた。
     呼び鈴を鳴らした後の数秒後に襲いくる「何してんの僕っ⁉︎」っていう冷静な自分が一瞬で頭をクリアにして、アポ無しだしこの後なんて第一声を上げるんだ? とか「チョコもらってないんだけど、本命だよね? どんなのでももらうよ」をマイルドに言うのムズすぎだし、ここまで全部僕の妄想なのになにやってんだ⁈ってなってる間にドア開いちゃった。

    「ア……エト」

     言葉に詰まってしまった。
     扉が開いた瞬間に確信へと変わった事も相待って、自分がなにをしにここまでノコノコとやって来てしまったのか、どうしてこうも彼女のこととなると短絡的になってしまうのだろうかと。

     もっと上手くやる方法はきっとあったはずなのに。

     どんなに考えたって結局出来っこないし、思いつくこともないのだろう。

    「失敗しちゃって、というか、出来てはいるんです。でも、あんまり上手くいかなかったといいますか、見栄えがよくなくて、渡したくなくなっちゃって」

     そうこうしていたらこんな時間になっちゃって、どうしようと途方に暮れていた。そんな時に本人に来られたらそれはびっくりするだろう。

    「なんでもいいよ。君の作ったもの、君が僕にすること全部、僕だけにしてほしい……ダメ……かな」

     自分が急に饒舌に喋り出してびっくりしてしまう。
     
     自然な流れで手を取って、人と目を合わせることが苦手なくせに、吸い込まれそうな綺麗な瞳をじっと見つめ「期待してもいい?」とずるい聞き方をする。
     逃げ道を残そうとする狡猾な自分を恥じるけれど、傷つくのは怖い。
     ここまでシナリオ通りでも、突然の不幸は誰にも予測できっこない。
     
     監督生は僕の髪を少し掬って「わかってて聞いてますよね」と困ったように、照れくさそうに言う。

     薄くピンクに爆ぜる素直すぎる炎髪が憎らしい。
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    MAIKINGアズ監🌸「戻れない日々の続きを歩いて行く」②その日、アズールは大学の講義を受けていた。そして、その後には、同じ大学だが他の学部に進学したジェイドとフロイドと合流し、モストロ・ラウンジに向かう予定にしていた。いつもと同じ大学の講義、教授の声。
     その中に、不意に
    ───『ア…ズール…せんぱ…』
    柔らかな、女性の声がアズールの脳裏に響いた。それはよく知った、大切な人の声。
     その瞬間、弾かれたようにアズールは立ち上がた。どくどくと変に心臓が高鳴り、オーバーブロットした時のように黒い墨がぽたぽたと胸の内に垂れ、酷く不安を煽る。
    (監督生…さん?)
     喉がカラカラに乾いて、息が上手く出来ない。初めて陸に上がった時とよく似た枯渇感が襲う。
    「アーシェングロット?何か質問か?」
    怪訝そうな教授の声が耳に届く。そこで、初めてアズールは自分が急に席を立ち、授業を中断してしまったことに気がついた。今まで何も聞こえなかった教室のざわめきが周りに戻ってくる。
    「あ、いえ…急に立ち上がってすみません。教授ここについて…」
    動揺を隠すように、アズールはにこりと笑い、予習していた内容を質問した。しかし、机の上に広げていたルーズリーフは強く握り込まれ、皺が寄 3041