ひっそりリア充になっていた件「い、いま?」
イデアは小声かつすっとんきょんな声でおろおろと視線を彷徨わせる。
ちょいちょいと服を引っ張られ、顔をそちらに向けたら「キスして」と唇をつんと突き出され、踵を上げては下げてとして監督生が待っている。
おねだりされるのは嫌いではないし、むしろ可愛いから好きなのだけれど、場所が場所だ。
監督生が生身のイデアを発見して駆け寄ってきて、移動教室の方向が同じだからと共に連れ立っているだけで、そこかしこにまばらに人がいる。
たまたま廊下の人通りが少ない場所に二人きりとなっているが、ほらまた人が来た。
イデアはポリポリと頬をかいて「揶揄ってない?」とニヒヒと試すような視線をぶつけてくる小賢しくも可愛らしい子の頬を摘む。
きょろきょろと辺りを見回してから、人の往来が完全にないことを確認し、イデアは顔を寄せた時に溢れる炎髪を右手で抑え、踵を上げてんっとキス待ちしている彼女の唇に軽く自分のものを重ねた。
「はい。これでおけ?」
ポッと頬を赤く染め、毛先も桃色にしたイデアが監督生を見下ろす。
満たされた顔が待ち構えていたので、不意打ちでもう一度唇を奪ってやる。
「わあ」
「年上を揶揄って遊ぶから、お、お仕置き」
「ふふふっ」
クスクスと唇を指先で隠すように微笑んで、首をちょこんと傾ける。お仕置きになっていないのは明白だ。
「……ほら行くよ」
「はーい」
手を繋がれて軽く引っ張られるままに、歩く。
歩幅の差を考慮した歩調に、監督生の胸はきゅんと高まり、握られている手に少し力を込め、視線を向けてきたイデアに笑みを向ければ、彼は気恥ずかしそうに眉を寄せ「なんだよ。変なやつ」と柔らかな笑みをこぼす。
その一部始終を見ていたイグニハイド寮生が「うちの寮長がひっそりリア充になっていた件」というスレッドを立てたとか。