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    itokiri

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    itokiri

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    イデ監
    眠そうな🌸にお膝くる?と言った💀の話

    ##イデ監

    三大欲求に抗うな 喉を鳴らす音がやけに響く。いや響いてはいけない。自分は座り心地最低最悪な椅子。感情を持つことはNGだ。
     目線の先に浮遊させてたタブレットの真っ黒い画面に自分の顔がちらっと映り二度見した。
     なにその顔キ……キンモ! とげんなり。
     そもそも自分で招いた事故。ラッキー? なわけで、この結果って自分のせいなわけですし。
     ひくついた表情と真っ赤な顔に伸びている鼻の下。
     首筋に立つ筋が緊張感を表している。

     五分ほど前のことだ。勉強を教えて、気晴らしにボードゲームで遊んでとしていたら「あふ」という可愛いあくびが聞こえきた。
     自室という己のテリトリー故に調子乗ったことを言ったし、半分以上冗談だった。

    「お膝くる?」

     なーんちゃって。を紡ぐ前に「うん」う、うん⁈ と状況を把握し訂正する隙も与えず、胡座をかいていた足の間にぽすんと着席して身体が胸に預けられていた。

     すー。と寝息が聞こえたのはすぐのことで、本当に眠たかったらしい。
     いやいや、いやいやいやいや、拙者と君は友達だよ? 先輩後輩であり、特別な関係はない。この距離感有りなの? 
     ごきゅっと喉を鳴らすこと五回。その記念すべき五回目の嚥下シーンが冒頭ってわけ。

     これはお布団に運んであげるべき? でもこの体勢からお姫様抱っこなりしてってどうやるんだ……いくら小柄な彼女とはいえ、子供のようにひょいっとはいかないだろう。
     起こすのも悪いが、そもそも触るのは……

    「はーー……」

     諦めて脱力。もう無だよ。この距離に入られるのがプラスって思えないんだよな。意識されていないが正解。深読みして勘違いするなんて馬鹿らしい。
     この子は眠くて眠くて仕方なくて、愚かな僕の発言を処理する正しい脳の動きができなかった。だからきっと目覚めたら顔を真っ赤にして謝ってくる。そして距離を置かれて友達も失う……つら。

     鬱に突入したあたりでもぞもぞと監督生が身じろぎ、横向きになったと思ったらぎゅっと右腕を掴まれた。
     膝がきゅっと折り畳まれているが、ポジションが定まらないのかもじもじもぞもぞと足を擦りあわせていて、本当にナチュラルな動きで彼女の身体を左手が支えた。

    「やば」

     触っちゃったよ……捕まる? 犯罪なんじゃないのかこれ。
     ドキドキと胸を緊張と不安に高ならせつつ、触れた肩があまりにも細く頼りなく、そして柔らかくて驚いた。

    「う……き、きついのだが……」

     妙に身体が火照り、簡単に反応しそうになる自分を諌めたくて奥歯を噛む。
     なんでこんなに無防備なんだよッ! 

     という時間が過ぎ、だんだん慣れが出てきたのは彼女がシエスタ入りして三十分ほど経った辺り。
     タブレットで電子書籍を読んでいたところ「あの」と声がかけられた。

    「おはよ」
    「お、おはようございます……あの、えっと……」
    「もう眠たくない?」
    「は、はい……ぐっすり眠ったので」
    「へえ……椅子として誇らしい限りだよ」

     かーーっと顔を赤くして両手で覆っているが、速攻で飛び退かれると思っていただけに、じっと動こうとはしないので不思議だ。
     そんな時きゅーっという切ない音が聞こえてきて、ぱっと視線を下げれば「あ、あはは」と誤魔化そうとしながらもお腹を抑えていて、仕方ないなという気持ちに笑みが溢れる。

    「監督生氏は欲求に忠実ですな〜」

     よっこいせと固定されて痛む腰を抑えて立ち上がり常温常備してあるミネラルウォーターを電子ケトルに入れ、床に積まれている段ボールの中からカップ麺を取り出す。

    「兄ちゃんがいいもの作ったげる」

     カチンとケトルが湯を沸かし終え、それをお気に入りのカップ麺に注ぐ。
     背を向けていたために、背後で「兄ちゃん」と復唱していた監督生の表情を知らないで、タブレットで三分タイマーセットをする。

     無言で床に置かれたカップ麺を膝を突き合わせて見つめ、ピピピ。とタイマーが鳴るのを聞く。
     カップ麺の蓋を開けてフォークでまぜまぜしたものを「はい」と手渡してくれる。
     意外なことに増量タイプのカップ麺だったので、食べ切れるだろうかと監督生は不安に思いつつ、作ってくれたイデアにお礼を言ってから出来立てのカップ麺をふーふーとしてから啜る。

    「はふ、はふ……」
    「フヒ……かわ……ゲホンゲホン! ど? おいし?」
    「おいしいです」
    「よかった。無理に食べ切らなくていいよ。残ったら兄ちゃんが食べるから」
    「んぐっ……は、はい……」

     先ほどからうっかり兄を名乗るイデアだが、理由としては膝に乗られたことを脳がうまいこと処理しようとしてこうなっている。というのがしっくりくるものだろう。
     本人も自分の発言に気がついておらず、完全に素の状態で兄振る舞いをしている。
     監督生はちゅるっと麺を啜りながら優しい眼差しを向けてくるイデアを見つめ、ムッと眉を寄せる。

    「どしたの?」
    「おなかいっぱいです」
    「ほい」

     カップ麺を受け取ると躊躇いなく同じフォークで麺を啜る。間接キスにドキドキしているのは監督生だけのようだ。

    「スープ飲む?」

     わざと同じところに口をつけるという行為は変態臭いだろうかと躊躇うのをみて、ようやく事態を把握できたのか、ぼわっと髪が桃色に変化していた。
     監督生はこの覚醒を逃したくないので、イデアの手からカップ麺を受け取りこくっとスープを一口飲む。

    「お兄ちゃんじゃないです」
    「は、はい? え? どゆこと?」
    「イデア先輩は私のお兄ちゃんじゃないです」
    「そ、そうだよ。なに。本当に」
    「だから……」
    「き、君だって、平気で男の前で寝たりとか、どういうつもりなの」

     処理が始まった頭は意味を正確に汲み取ったようで、少し苛立ったように眉を寄せている。
     処理はできていても理解が及んでおらず、本来の意味と僅かなズレが生じている。
     それを正すのは欲求に素直な監督生の役目なのだろう。

    「先輩にしかしません」

     身体をイデアに寄せ、胸板に手を乗せる。
     僅かに体重をかけて顔を寄せる。

    「こういう……こと」

     間接的ではないキスをすれば、イデアは顔を真っ赤にしながら「なんでそんな強気なんだよ」と悔しそうに唇に触れていた。
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