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    itokiri

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    イデ監
    初めてのお泊まりで覚悟決めてきた🌸を兄力で包み込む話

    ##イデ監

    ほんの少しの辛抱ほんの少しの辛抱
     イデアと監督生が付き合ってから約一月半ほど経っている。
     なのに全然手を出してこないのだ。と監督生は目をギラギラさせてイデアの燃える髪を後ろから眺めていた。
     本日は初めてのお泊まりだ。もしかしたらもしかするかもしれない。そう意気込んでそわそわしていたのだけれど、それがなぜか「もしかして寒い?」と受け取られ、実際うっすら寒かったのもあるし、この流れは彼シャツならぬ彼パーカーでは? とピコンとセンサーが反応し、監督生はその問いに頷いた。
     イデアはタンスを開き「すまそ」と早く気づいてあげられずに申し訳ないと頭を掻きつつ言う。その後ろ姿をムフフと楽しみで仕方がないと待っていたらこれである。
     ぱんぱかぱーんと出されたのは淡いブルーとホワイトの新品のモコモコパジャマ。サイズはどう見ても自分のもので、ご丁寧に用意しておいてくれていたらしい。
     チガウチガウソウジャナイ。と思いつつも好意を無碍にすることはできず、複雑な心境で袖を通す。
     はっ! 今からえっちなことするかもしれないのに厚着をしてしまった! と気づくも着込んでしまった手前もう脱げない。
     よしもうこうなったらいくしかない。
     ポジションの確認。監督生はベッドのそばで、イデアはお腹をポリポリ掻きながらこちらへやって来ている。チャンス! 監督生はイデアの手を掴みそいや! とベッドの方へ全体重をかけて引っ張った。

     が。

    「な、なに? どしたの」

     びーーん。と腕がまっすぐ伸びて綺麗な直線が描かれただけだった。
     体幹のないイデアを甘く見すぎていたらしい。手首を逆に掴まれて倒れ込むのを阻止している。

     ぽすん。と一人虚しくベッドから天井を見上げる。

    「あ、も、もしかして、もう眠い? そ、そうだよね。もうこんな時間ですし、寝よっか」
    「……はい」
    「ユウちゃんは壁際ね。落っこちたら危ないから」
    「はい」

     イデアのスペースを開け、横を向いて彼がベッドに入ってくるのを見つめている。
     部屋の明かりを落とすと、彼の炎髪が仄暗い中に揺らめいていて幻想的だった。

     ぱち、ぱち。と瞬きをしてから、監督生は顔に熱を集めながら最後のカードを切る。

    「きょ、きょ、今日、か、可愛い、下着……です」

     しーん。と静けさと僅かに彼の熱が爆ぜた感覚がした。
     硬く閉ざしていた瞼を沈黙に耐えかねて上げれば「へぇ」と彼の青い唇が動き、そろそろと目線を上げていくと「見せてよ」と試すような瞳が待ち構えていた。

     ごく、と唾を飲みバクバクと忙しない心臓に鎮まれと命じても意味はなくて、余計にうるさく喚き散らす。
     すると空気を震わせる優しい笑みが張り詰めていたものを解かせた。

    「安心して、今日はなにもしないよ」

     優しい声で頭を撫でられて、唇をきゅっと結ぶ。
     子供扱いされているみたいですごく……すごく、悔しかった。

     監督生は頭を撫でてするりと離れていく手を捕まえて、彼の指先をぎゅうっと包み「しないんですか」と勇気を振り絞る。
     彼が奥手で自分がどうにかしなくてはならないんだと思っていたのに、実際はそうじゃないかもしれなくて、それは彼が自分よりも年上で大人びているから当たり前といえばそうなのに、なぜかその余裕が納得がいかなくて、もやもやして早く大人になりたいと焦ってしまう。
     ごくりと生唾を飲み込んで返事を待つ。

    「しないよ」
    「本当に……?」

     少しだけ時間を開けてから「じゃあ」とイデアが監督生の手を反対の手で包んだ。

    「ちょっとだけちゅーする?」

     監督生はイデアの顔を見つめることができず、目を閉じたままこくこくと頷いた。
     火を吹いているのではないかというくらい顔が熱い。
     用意してもらったパジャマを違った意味で脱ぎたくなっていた。

     そんな別のことを考えてしまった刹那、シーツが擦れる音と頬に沿わされた大きな手が、するりと顎を撫で、ぷちゅっと可愛らしい乗せるだけのキスが落とされた。
     これだけ? と目を開けた時、かぷっと唇が塞がって、いつの間にか片手で手首を掴まれて動かせなくなっており、状況が突如として変わりすぎて追いつけなくなっていると、にゅるりと口腔内に熱くて柔らかいものが滑り込んで、びっくりして引っ込んだ監督生の舌を追い回す。
     しつこいくらい絡みついて、苦しくて溺れそうなのにやめてくれなくて、途端に怖くなってしまい身体が震え始める。
     するとイデアはすぐに舌を抜いて息継ぎの時間を与えるなり、手の拘束を解いて指を絡ませる。

     呼吸を整えているのをじっと見つめながら、整った辺りで目元や頬にちゅっ、ちゅっ、と優しいキスを落としていき、最後に唇にぴとりと重ねる長めのキスをした。

    「ほら。君にはまだ早かっただろ?」

     ニヒッと意地悪く笑むなり、彼は「ほらおいで」と自分の方へ抱き寄せる。
     ぴったりと抱きしめられた時、なにか硬いものに触れた気がしてゲーム機かなにか? と触れた場所を確認しようと手を伸ばすのを、イデアに阻止された。

    「……そこにはなにもありませんので」

     監督生はきょとんとしつつもなにがあるのかをすぐに理解して顔を真っ赤に燃やす。
     けれどほっと安心しているところもあった。

    「な、なんでこのタイミングでニヤニヤするの? 意味がわからないのだが」
    「えへへ……先輩がちゃんと男の子なんだとわかったので安心しました」
    「今までなんだと思ってたわけ」
    「……彫像?」
    「せめて生き物でヨロシャス」

     イデアはすーーと息を吸い込んでから、監督生の背中をとんとんと一定のリズムで叩く。
     安心したこともあり、監督生はすぐにうとうとしはじめ、イデアの胸に頬を擦り寄せてあくびをした。

     ほんのわずかに速い鼓動と、慣れ親しんだ彼の熱、香りに瞼が落ちていく。

    「おやすみ」
    「おやすみなさい……」

    「もう少しだけ待ってあげるから」

     その声は微睡の中に溶けていく。
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