君のせいで筋肉痛だよ「じ、実は、拙者腹筋割れてまして」
唐突な申告に監督生が黙っていると、イデアはあっあっと慌てつつも深呼吸を短く繰り返すなり、改めてと同じセリフを述べた後に「み、見ます?」と内緒だよのトーンで告げた。
イデアの部屋でゲームをしていた際に、ゲームのキャラクターが筋骨隆々としていたのを「すごいですよね」と監督生が感心していたことに起因しての発言で、口から出まかせ半々事実半々といったところ。
確かに腹筋は割れている。だがそれは元々割れているものであり、鍛え上げたものというわけではない。イデアの場合痩せすぎていて見えているだけ。だが嘘は言っていない。ということで服をチラッとめくるモーションに入る。「これセクハラじゃない?」とうっすら思い手が止まるが「見せてくださるんですか?」というキラキラした目を向けられて満更ではなくなる。
「フッ……しゃーねーな。ほらよ」
「……ほんとだ。絶対冗談だと思ってました」
「フヒ。まあ冗」
「かっこいい!」
「フホッ……ぐふっ」
「すごいすごーい!」
「フヒッ、も、もっとちょうだい。き、筋肉も褒めると喜ぶからさ……ヒヒッ」
「冗談なんだけどね〜。これは痩せてて筋肉見えちゃってるだけ〜たは〜〜」の予定が崩され、いとも容易く鼻の下が伸びる伸びる。調子に乗っているので「触る?」なんて言ってしまう。もう今日はパーティーなんじゃない? 夜の。ぐふ。とニヤニヤニマニマとモザイク必須なスマイルで鼻息を荒くしている中で、監督生はひたすらイデアのお腹の筋肉をペタペタと触っている。
「意外と柔らかい……ちょっと力入れてください。わ、わ、硬くなってきた……すごい、わあ……カチカチだ」
「ウ、うん、なんか……」
エロく変換されるんですけど。ときまり悪く腹に力を入れながら足をもぞもぞと擦り合わせ、監督生が平然と手に触れだして袖を捲り腕をきゅっきゅっと掴み始めてるのを生々しい眼差しで見つめつつ「いや、これはもう、イケるでしょ」とスイッチを入れ直す。
これはもうソレの導入。
監督生はイデアの思わぬ男らしさに惚れ惚れとし、普段そんなに意識していなかった魅力に当てられ、段々と近づくイデアの動きに身を委ね……
「そろそろ帰りますね」
「へっ」
肩に回そうとした腕が空を掴み、キョトンとしている眼差しに耐えられずに存在しない虫を殺したという事にする。え? ここからそうならない展開は予想外なんですけど。
頭がピンク一色に塗り上げられていたので、だいぶ回転率が悪い。不自然なまでに上がっている心拍数に唇を謎に突き出して静止して「ばいばーい」と手を振って部屋を出ていった彼女に「アッ、はい」と返事をかろうじてした。多分。
そして
「ッ〜〜! んでだよッ‼︎」
ベッドの上でブリッジをしつつ、妙に上がってしまっているテンションを不本意な筋トレで発散することになった。