エロゲの世界のモブに転生とかマ?!満点の星空と、そよそよと夜風に揺れる木々。それを寝そべって見上げる形で目が覚めた。
第一声すれ上げられないほどの驚愕が襲いかかる。
イデアはごくりと唾を飲み込み、視線だけをあっちこっちへ動かして、体をぎゅっと硬直させた。
「せ、拙者、し、し、死んだ?」
いや生きてる。はず。一応、多分……と確かめた後、ならどういう状況? とより一層窮地に立たされる。
どう見ても寮の自室ではないのは明らかで、そして自分が外で大の字で寝そべるなんてことはありえないことだ。でもそれがありえている。なぜ? とまずは直前の記憶を呼び覚ますことにした。
暇つぶしにエロゲーをやっていた。出会うキャラ全員をメスイキさせるというヤリたい放題のゲームだ。
内容なさすぎてエロも陳腐だった記憶だ。一周回って面白いゲームかもしれないと思い始めて、そして……そして?
転んだのかな。後頭部がめちゃくちゃ痛い。
というか、このグラフィック……なんか既視感あると思えば……
イデアはようやく寝そべり状態から、半身を起こしてぐるりと首を動かして辺りを見渡した。
「……拙者、エロゲの世界に転生しちゃったっぽい」
ぴゅーと冷たい風が頰を撫でた。バクバクと鳴り出した心臓と、この状況に「やったぜ!
ヤリまくってやる!」だなんて股間が熱くなることもない自分に内心ホッとしたり、忙しない感情と冷静な脳がイデアの行動を静止させていた。
「大丈夫ですか?」
と声をかけられ、振り返るまで。
「かんっ、か、監督生氏?!」
エロゲ世界にいるはずのない平凡な顔立ちの幼児体型な彼女。いや、ロリは需要あるし拙者は好き、じゃなくて! 頰を平手打ちして頭をぶんぶんと振り回し、もう一度本当に、本当に、正真正銘彼女なのかを確認する。
「あの、こんなところでどうされたんですか?」
「いや、拙者、これには訳がありまして、たまたま開いたゲームがこれで、好きでやっていたとか、やりたくてやっていたとかそういうのでもなくて、何が言いたいかと言いますと、サーセンしたッ!」
土下座で地に額をくっつけての謝罪。
これを浮気認定するかどうか、とかではなく、仮にも付き合っている人がいて、その人と清く正しい付き合い方をしているにも関わらず、知らぬところでしょうもないエロゲーでシコっていたと思われても仕方のない状況に対して、誠意を込めての謝罪をした。
余計なことを言うのは悪手。ここは下手に出て謝り倒すのが正解だ。
彼女はイデアとそういうことがしたいと仄めかしていたというのがあるわけだから。
不誠実なのはイデアの方。
「えっと……あの……」
彼女が口を開くのを遮って、草陰からクマのように出てきた男が、無遠慮に監督生(仮)の髪を掴んで引っ張った。
「どこに逃げたかと思えば、他の男に媚び売ってんじゃねぇメス豚が!」
「い、痛い、やめてくださいっ」
「うるせぇブス! てめぇはさっさと股開いて豚みてぇに鳴いてりゃいいんだよ! なんだお前、お前は俺がこいつをハメてる間、チンコでもシコってろよヒョロガリ野郎。豚みてぇに鳴いてるこのブスの顔に、てめぇの汚ねぇザーメンかけさせてやってもいいからよ」
イデアが状況に怒るまでの数秒の間に、このクソゲームの説明をする。
このゲームにはトロフィー要素もあり、狭いエリア内にいる全てのキャラクターと性交をして、特定回数絶頂を迎えさせるというものがあり、それをクリアして初めて出会える隠しキャラクターが存在するのだ。
そのため主人公であるプレイヤーは目当てではないキャラクターともハメ倒さねばならない、作業セックスを余儀なくされる。
そのため、好みではないキャラクターとセックスする時は、乱暴なプレイや、普段できないような過激なことを強いるプレイヤーがほとんどなのだ。
ということで、イデアの沸点がメーターを振り切り、自分が主人公ポジではなく、あくまでもモブとしてこの場にいることを理解した瞬間がこちら。
「誰の彼女にブスだの豚だの言っとんじゃぁぁぁ!!!!」
炎髪が烈火の如く燃え上がり、触れても熱くないはずのそれが熱を持って広がった。
ゆらりと立ち上がり、長い足で距離を詰め、どこからそんな力が出るのだというぐらいの腕力で、主人公の手首を捻り上げる。
賢いイデアならではの、人体の仕組みを利用したものであるが、男は情けない声をあげて尻餅をついた。
さっきの威勢はどこへやら、股間すれすれに踏み込んだイデアの足にビビり倒して萎れたソレを抑えて、下唇を噛んで泣きそうにイデアを見上げた。
「あーもういいわお前、一日中チンコ擦ってるだけのクソザコとの会話? 時間の無駄ですわ。目障りなんで、さっさと消えてくんない?」
風よりも早く消えた主人公の背には目もくれず、しゃがみ込んで震えている監督生のそばに行き、肩に手をそっと添える。
「大丈夫? こ、怖かったよね、ご……ごめんね、いや、拙者が悪いわけではないですが……」
ごにょごにょと言いながら、その場から立たせて、忌まわしい記憶を拭うようにあてなどないが、ゆっくりと足を進める。
「助けてくださってありがとうございます」
「いや、別に当然ですし、てかなんで敬語? あ、いや元々敬語でしたけども、なんか他人行儀と言いますか……」
ここにきて他人だったりしてということに気づいたイデアは、当たり前のように抱いていた手の戻し方を検討しつつ、彼女の顔をそろりと覗き見た。
いや他人にしては似すぎーー!
一人百面相しながら「あの、監督生氏じゃない感じデスカ?」と聞こうとしたところで、彼女はばたりとその場で崩れ落ちるように倒れた。
「っぇぇえ?! だ、大丈夫?」
もう一つこのゲームの要素として、一定時間異性と共に過ごすと、女性側が発情するという要素があった。
ということをイデアは瞬時に思い出し、異様に熱い身体と、艶かしいまでの色香を放つ彼女にごくりと唾を飲み込んだ。
た、他人かもしれないのに!
「たすけてくださいっ」
こんなの反則では?!