そういう訳でナワーブには心配事があった。数年ぶり、人生の色々な苛烈を経てから恋や愛を注いだ相手である。心配など尽きることがなかったが、その中でも身近で、それなりに見過ごせるものがある。いつもは幸福そうに色づく体躯だとか、心底好きだと言外に伝えてくる神秘の瞳だとか、食むと甘く離せばしとどに愛を伝えてくれる唇だとかを目の当たりにして「まあ大丈夫なんだろう」と判断してきた。
が、いつかはきちんと聞かないとならないと心に決めていた。何せ建前上は彼の身体を保護かつ監視するという名目で手を出しているし、愛しているという本心を鑑みても聞くべきなのだ。色が悪いどころか初め会った頃は透けてさえいた肌はだんだんと色を取り戻している。注意深く観察しているが、これといった不調は見受けられない。しかし彼は往来の生き方があまりに悲惨だった為か、無理をすることに慣れきっていた。そしてナワーブは彼を愛していたので、そんな無理はひとかけらもして欲しくなかったのだ。
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