ファーストピアス「どうしたんだセイル、お前から頼み事とは珍しいな」
「た、大したことじゃないんだ。えっと、その……」
本日の宿。気恥ずかしそうにもじもじと身を縮めるセイルの様子に、ヨルンは首を傾げた。
何かあっただろうかと考えてもあまり浮かばない。よく分からないまま彼の要件を待つと、セイルは意を決した様子で何かを差し出した。
それは少し前に装備の分配で彼に渡したピアスだった。旅人にとってアクセサリーはそこそこ重要だ。なのでセイルにもと手渡したのだが、どうやらある一点を失念していたようだ。
「ピアスの穴……開けて欲しくて……」
“頼みたいことがある”とセイルが珍しく服の裾を掴むものだからどうしたことかと思ったが、そういうことだったかと息を吐いた。
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