プロローグ 目覚め、或いは「おはよう。皆。」
カリカリと音が響く。紙を鉛筆が引っ掻く。
「出席をとります。と言っても見ればすぐわかるけどね。でも、必要だから呼ばれたらちゃんと返事をしてね」
いつも通りの先生の優しい声。分かってると思うけどと付け加える。
「常音路 影慈」
はいと凛とした声が空気を震わせる。
「篁 雪遥」
はーいと少し砕けた声が教室に響く。
「鈍色 犀」
はいと短く声を出す。手は止めない。
どうしても絵を描きたかった。この一枚だけは、完成させたかった。
「今日も皆と会えてよかったよ」
と先生は話した。いつも通りの笑顔。何も変わらない日常。
と違和感が一つ。
酷く見慣れた隣の席には。
その席の主がいない。
ぽつりと置かれた花瓶がやけに気持ち悪くて。
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