風が吹いた日「ほんま、いい加減にせぇよ」
「……」
風のない、静かな夜だ。
今日の火の番は最初がヴァッシュで、次がウルフウッドという取り決めだった。月が天頂から45度傾いたら交代という暗黙の了解があったのだが、ウルフウッドが目を覚ました時、月はだいぶ先の方まで傾いていた。起こすために話しかけるより、寝ずの番をした方がましってことか、と、内心で舌打ちをする。そうやって出て行った先では、赤いコートの男が酷く傷ついた顔をして座っていた。それが、ウルフウッドの気持ちを逆撫でした。
「いつまでぶすくれとんねん。おどれがそうやって黙っとるから、ねーちゃんもおっさん――は知らんけど、とにかく揃いも揃って辛気臭い顔してかなわん。車内の空気が最悪や」
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