その日は予定よりも随分早く切り上げることが出来て、浮かれ足で家に帰った。なんなら駅前で想楽への土産も買った。じつに数日ぶりの帰宅だった。
「ただいまー」
ドアを開けると、見慣れぬ靴があった。これは、下駄?いや草履だったか。想楽が買ったのだろうか。彼の趣味と言えば彼の趣味だが。着付けなんて出来るのか?
「想楽ー?」
いつもならおかえりーと返ってくる時間帯であるのに、返事がない。今日はもう寝てしまったのだろうか。
想楽の部屋をそっと覗くと、電気はついておらず、真っ暗だった。しかしながら、廊下の明かりは、何とも衝撃的な光景を照らし出した。
一組の布団の上に、想楽と、見知らぬ青年がいた。青年は想楽とほとんど変わらないくらいの体格で、添い寝……添い寝をしている!弟と!抱き合って、抱き合って眠っている!
友人だろうか?それにしては距離が近い。独特な寝相という線も、なきにしもあらず。
これは……いや、まさか……。
「そ、想楽ー?」
このまま静かにドアを閉じ、家を出て、近くのネットカフェにでも行くべきだったと、後から思う。見なかったことにしてしまえばよかった。だがこの時は、あまりのショックに頭が働かなかった。
「なにー……にいさん?」
想楽は絡んだ腕を解いて、のそのそと起き上がった。寝ぼけ眼で、俺と隣の青年を見比べる。そして、状況を飲み込むと、しまったという顔をした。薄闇でよく見えないが、血の気が引き、青ざめているのだろう。
その反応が、すべての答えだった。二人がどういう関係か、何をしていたか。
俺は力が抜けてしまって、とうとう床にへたり込んだ。