真理を知る ひょんなことから突然現れた人のようでそうではない不思議な男に気に入られ、それ以来それは我が家に遊びに来るようになった。訪れる度に私の医者の仕事を褒めてくれ、いつも労ってくれる。
仕事をしている時彼は居ないはずなのに何故私の行動を全て知っているのだろうか。気になって聞いてみると彼は当たり前のように言う。
「貴様のことはいつも見ているぞ?俺が貴様をどんな災からも守ると言っただろう」
彼の言葉に妙な説得力があり私は頷くことしかできなかった。彼の言うことに間違いは無いのだと思わせるような、従ってしまうような雰囲気に圧倒されてしまうのだ。
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「最近よく出入りしているあの男は貴様の何なんだ?」
ある時彼にそう尋ねられた。
「ええと…患者さんだよ」
「だがあれはもう完治しているだろう」
「うん…ただまだ心配なようでよく聞きに来るから…」
「フゥン…」
彼は考え込む素振りを見せると、こっちを見つめてきた。その瞳は見る者全てを吸い込むように爛々と輝き、燃えるように揺らいでいる。思わず背筋を凍らせると彼は牙を見せて笑って私の頭をゆっくりと撫でた。
「あれは貴様に災をもたらす。大丈夫だ、俺が貴様を守るからな」
どういうことかわからず体を固まらせる私を彼は包み込むように抱きしめてきた。体格のいい彼は私の全てを包み込んでしまう。触り心地の良い尾がまるで逃がさないと言わんばかりに私の体に絡みつく。
「貴様は他者を愛し尊重することができる人間だ。そんな貴様を俺は愛し尊重しよう。貴様の側には俺がついていることを忘れるな。俺は貴様の最期の時までずっと側に居る」
何故あの患者が災だと言い切れるのか。最期の時までとはどういう意味なのか。けれどその問いに彼の瞳は答えてくれそうにない。彼が私を離す気がないのはすぐに理解できた。彼にとってそれは当たり前の真理であり、彼がそう言うのだから私にとってもそれが真理となる。
彼に見初められた時点で、もう決まっていたことなのだ。
私のようなちっぽけな人間に、抵抗する術など無い。