疾風と黒金の絆銀河帝国暦489年、イゼルローン要塞近郊での戦闘は熾烈を極めていた。同盟軍の艦隊が巧妙な罠を仕掛け、帝国軍の前線を分断しようと試みていた。だが、そこには「疾風ウォルフ」と「金銀妖瞳のロイエンタール」、二人の天才将官が立ちはだかっていた。
戦場を俯瞰する旗艦「ベイオウルフ」のブリッジで、ヴォルフガング・ミッターマイヤーは鋭い眼光を輝かせていた。蜂蜜色の髪が汗で額に張り付き、戦闘の熱気が彼の体を包んでいる。「ロイエンタール、左翼の敵艦隊がこちらを誘い出そうとしている。奴らの狙いは分断だ」と、彼は無線越しに冷静に告げた。
「分かっているさ、ミッターマイヤー。だが、奴らがこちらの動きを読む前に仕掛ける。卿は右翼を突け。俺が左を叩き潰す」と、オスカー・フォン・ロイエンタールの声が返ってきた。その声には冷徹さと自信が混じり合い、黒髪を揺らす彼の姿が目に浮かぶようだった。異色の瞳を持つロイエンタールは、自艦「トリスタン」から敵の動きを的確に読み解いていた。
二人の作戦は完璧に噛み合った。ミッターマイヤーの艦隊が疾風のように右翼を突き崩し、同盟軍の陣形を混乱に陥れると同時に、ロイエンタールの冷静かつ冷酷な指揮が左翼を殲滅した。敵の旗艦が炎に包まれ、爆発する瞬間、二人は互いに無線で短く笑い合った。
「見事だ、ロイエンタール。卿の左翼への一撃は芸術的だったな」と、ミッターマイヤーが賞賛の声を上げた。
「卿こそだ、ミッターマイヤー。あの速度で敵を粉砕する姿は、まさに疾風そのものだ」と、ロイエンタールが応じる。戦場に響き渡る爆音の中で、二人の絆はより強固なものとなっていた。
戦闘が終わり、帝国軍の勝利が確定した後、イゼルローン要塞内の将官会議室に将校たちが集まった。そこには、皇帝ラインハルト・フォン・ローエングラム自らが姿を現していた。金色の髪を揺らし、若き皇帝は威厳ある声で戦果を称えた。
「ミッターマイヤー、ロイエンタール。卿らの働きは帝国の誇りだ」と、ラインハルトが二人を見据えて言った。「ミッターマイヤー、卿の突撃は敵の心を折り、ロイエンタール、卿の冷徹な一撃は敵の希望を砕いた。この勝利は卿ら二人の力があってこそだ」その言葉には、皇帝としての威厳と共に、彼らの能力への深い信頼が込められていた。
他の将官たちも皇帝の言葉に続くように口を開いた。「ミッターマイヤー提督の突撃は、同盟軍の士気を根こそぎ奪った。あの速さは我々の想像を超えている」と、フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルトが豪快に笑いながら言った。オレンジ色の髪を掻き上げ、彼はグラスを掲げて敬意を示した。
「そしてロイエンタール提督の冷静な分析がなければ、敵の罠に嵌まっていたかもしれない。貴方の指揮はまるで氷のように鋭い」と、アーダルベルト・フォン・ファーレンハイトが静かに付け加えた。彼の言葉には、普段の寡黙さとは裏腹な熱が込められていた。
パウル・フォン・オーベルシュタインは無表情のまま、「結果として帝国の勝利が得られた。それが全てだ」とだけ述べたが、その冷たい口調の中にも二人の働きを否定できない響きがあった。
会議が終わり、将官たちが散会した後、ミッターマイヤーとロイエンタールは要塞内の私室に場所を移した。テーブルには上質なワインと二つのグラスが置かれ、戦いの疲れを癒すためのささやかな時間が始まった。
「ふう、やっと一息つけるな」と、ミッターマイヤーが椅子に腰を下ろし、グラスに赤ワインを注いだ。彼の顔には疲労と共に満足感が浮かんでいた。「陛下からあんな言葉をもらうなんてな。今日の戦いは特別だったよ、ロイエンタール」
ロイエンタールは片方の眉を上げ、グラスを受け取ると軽く微笑んだ。「ああ、確かに。あの陛下が素直に褒めるなんて珍しい。卿が俺を信頼してるからこその勝利だ。今日の戦いも、卿に右翼を任せられるからこそ俺は左に集中できた」と、彼は静かに言った。異色の瞳がワインの色に映り込み、深い思索を湛えているように見えた。
二人はグラスを合わせ、乾杯した。カチンと澄んだ音が部屋に響き、戦場での緊張がようやく解けた瞬間だった。「卿の突撃がなければ、敵はまだ粘っていただろう。あのタイミングは完璧だった」と、ロイエンタールが珍しく率直に褒めた。
「卿の分析がなければ、俺はただの猪突猛進で終わってたさ。卿の頭脳があってこその勝利だ」と、ミッターマイヤーが笑いながら返す。二人の会話は自然で、互いへの敬意と信頼が言葉の端々に滲み出ていた。
ワインを飲み進めながら、彼らは戦いの細部を振り返った。ミッターマイヤーが敵艦隊の混乱を笑いものにし、ロイエンタールがその混乱をさらに深めた自分の策を淡々と語る。時折、ラインハルトの賞賛やビッテンフェルトの豪快な称賛、ファーレンハイトの静かな賞賛が話題に上がり、二人は苦笑を交わした。
「陛下に『帝国の誇り』なんて言われたら、次も気を抜けないな」と、ミッターマイヤーが少し照れ臭そうに言った。
「卿ならその期待を超えるさ。俺も負けてられんがな」と、ロイエンタールが軽く笑う。
夜が深まるにつれ、ワインのボトルは空になり、二人の会話は戦いから日常へと移っていった。ミッターマイヤーは家族の話を、ロイエンタールは過去の戦いの記憶をぽつりぽつりと語った。戦場では無敵の将官である彼らも、この瞬間だけはただの人間として互いを認め合っていた。
「次もこうやって勝って、陛下に褒められて、こうやって酒を飲もうぜ」と、ミッターマイヤーが少し酔った声で提案した。
「ああ、そうしよう。俺と卿なら、どんな敵も倒せるさ」と、ロイエンタールが静かに頷いた。
窓の外では、星々が静かに輝いていた。戦いの熱狂が冷めた今、二人の絆はさらに深まり、次の戦いへの決意を新たにしていた。グラスの中の最後のワインを飲み干し、彼らは互いに笑い合った。勝利の味は、酒と共に彼らの喉を滑り落ち、未来への希望を灯した。